一歩間違えば失明(?)の危険なプレー
4. プロレス技?オーストラリアDF の
“ローリング・ソバット”的なクリア
グループDの第2戦目、チュニジア対オーストラリア戦で起きたシーンを紹介。オーストラリアが1-0でリードして迎えた前半38分、オーストラリアFWクレイグ・グッドウィンとチュニジアDFモハメド・ドレーゲルがハイボールを競り合った際に、危険なプレーが発生した。
ピッチ中央で両選手が競り合った後、ドレーゲルが倒れ、なかなか立ち上がれない。リプレイ映像を観ると、“ローリングソバット”のような体勢で飛び込んだグッドウィンのスパイク裏が、ドレーゲルの顔面に直撃していたことが判明。
サッカーのスパイクの裏には、主に鉄製かプラスチック製が用いられるが、いずれにせよ“尖った形状”をしており、当り所が悪ければ大怪我につながっていた可能性も少なくない。今回は大事には至らなかったようで、アイシングなどの処置をした後にドレーゲルはピッチへと復帰した。決して傷付ける意図はなかっただろうが、グッドウィンも肝を冷やしたことだろう。
5. ルールを知らなかった? ファッショニスタなフランスDF
最後に、決勝トーナメント1回戦のフランス対ポーランド戦から話題を呼んだシーンをご紹介。互いに譲らず0-0で迎えた前半41分、スローインを投げようとしたフランスDFジュール・クンデが、ライン側の副審から注意を受ける。その注意は、クンデが首につけていた「金のネックレス」に対してだった。
副審にその場で外すように促されるクンデ。素直に応じるも、上手く外すことが出来ず、最終的にチームスタッフの手を借りることに。解説(ABEMA中継)の福田正博氏も「大体試合前にチェックするんですけどね…」と発言した。
一昔前のサッカー界では、元イタリア代表ロベルト・バッジョなど、ピアスやネックレスを付けたまま華麗にプレーする選手も数多く存在した。ところが、2006年のドイツW杯を機に、接触時の危険を低減するため、金属製の装飾品の着用が厳しく制限されるようになったのである。
自らのファッションセンスをW杯という大舞台でアピールしたかったのか。もしくは、いつも身に付けたい大切な物なのか。クンデの本心は図りかねるが、再度試合に集中したフランスは、本来の実力を発揮し、ベスト8へと駒を進めた。
カタールW杯で注目を集めた、危険な接触プレーを振り返ってきた。国の威信をかけた真剣勝負の大舞台だからこそ、選手たちは果敢にチャレンジし、それゆえ時に悲惨な事故が発生してしまう。
脳震盪に対するルールが各国リーグで厳格化されるなど、様々な工夫がサッカー界で取り入れられつつある。例えばスコットランド・サッカー協会では、プロのクラブでのヘディング練習を週1度に制限し、試合前日と翌日も禁止する、という声明を先日発表した(プロよりも先にアマチュアで導入済み)。これは、「元プロサッカー選手は、ヘディングの衝撃により神経変性疾患になるリスクが高い」とする、英グラスゴー大の研究を受けた上での決定である。
サッカーは危険を伴うスポーツだ。しかし、選手は怪我を恐れてプレーするのではなく、体を張って、勝利のために全力を注ぐ。そしてその懸命な姿に、ファンやサポーターは興奮し、感動するのである。今後のサッカー界で、大事故となるような危険なプレーが、できる限り起きないことを願うばかりである。
取材・文/佐藤麻水