魂と情熱を誠実に吹き込むコーチ陣
プロサッカー選手としてフロンターレと契約しながら、プロのピッチには1試合も立てないまま現役生活を終えた自身の経験を引き合いに出し、玉置は言う。
「プロとして何も残せず終わってしまった自分の経験から、いちばん強く感じたのがやはり“ボールを扱う技術”でした。選手の能力には、高さやスピードなどいろいろな要素がありますし、自分も少しは自信を持っていました。しかし、プロになってみて思い知らされたのです。それだけでは通用しないのだと。
だから、U-10の監督をやるにあたって、(小学生年代で体が大きかったり、足が速かったりして)『今がいいからOK』という考えではダメで、その先の年代でも困らないように指導しないといけないと誓いました。そして、もっとも伸びるこの年代で何をすべきかと考えました。
その答えが、ボールを扱う感覚やフィーリングを含めて、技術的な部分を伸ばすことでした。やはり、ボールの扱いにつまずいてしまうと、その先で学ばないといけない“判断”(相手の戦術や立ち位置を踏まえたうえで、最適な戦いをするための能力)を学ぶ領域に入っていけないですから」
田中を筆頭にフロンターレ出身の選手たちが評価されているのは、相手の戦い方を見て、自分たちがどうすれば相手にとって嫌なのかを考え、それを実行できる力だ。
例えば、田中はこれを「後出しじゃんけん」と表現する。
その力はフロンターレのトップチームで磨かれたものだが、育成組織では、その資質を磨くために欠かせない“ボールを扱う技術”を向上させるメニューに重点的に取り組んできた。それが今につながっているのだろう。これだけ多くの日本代表選手を輩出している事実は、フロンターレの育成組織にかかわってきた者たちの指導の正しさを証明している。
ただ、忘れてはいけないのは、彼らがピュアな子どもたちに信頼されるパーソナリティの持ち主だということ。もしも、子どもたちの成長を自分の手柄にするような人間であれば、子どもたちは離れていく。正しい指導方針という教科書があるとすれば、そこに魂と情熱を誠実に吹き込むのが彼ら指導者なのだ。
そういえば、板倉、三笘、田中、久保にいつもメディアが群れをなして取材している。その理由もまたそこにあるのだろう。彼らは日本代表の中核を担っているというだけでなく、人間性もまた評価されているのだ。
その人間性がどこからきたのか、それは言うまでもない。
取材&文/ミムラユウスケ 写真/Getty Images