体験会で号泣した田中碧(5歳)。その驚くべき理由とは?
田中には伝説しかない。
さぎぬまSCでは、新年度の入団を考えている新1年生のための体験会を毎年3月に行っている。実際に入団してみて、「クラブの方針や雰囲気に合わない」と思う子もいるため、「来る者は拒まず、去る者は追わず」がポリシーのクラブにとって、体験会は大切な機会だ。
1998年度生まれの子供たちのための体験会が行われたとき、ワンワン泣いている子がいた。それが田中だったのだ。澤田代表が振り返る。
「幼稚園の年長の子が集まるわけですから、泣いている子はよくいます。たいていは『親から離れたくない』とか『みんなのように上手くボールを蹴れない』とか、そういう理由からです」
「この子も何か“不安”を抱えているのだろう」と考えた澤田代表は田中を落ち着かせるために膝の上に乗せ、彼が泣き止むのを待ってから発した質問をきっかけにやりとりが始まった。
「どうしたの? お母さんから離れるのがいやなの?」
田中が首を振る。澤田代表は優しく続けた。
「何ができなかったの?」
甘えん坊で人懐っこい雰囲気をすでに漂わせていた田中は、しかし、驚きの答えを口にした。
「こんな練習、つまんない!」
テレビゲームでもやりたいのか、それとも、ほかのスポーツに興味を持っているのか。澤田代表はあれこれ思案したのだが、田中の答えはこうだった。
「ぼく、もっと難しい練習をしたいんだ!」
田中の頭を支配していたのは“不安”ではなく、“不満”だったのだ。