フロンターレの幹は“ボールを扱う技術”

これほどまでに意図を持った指導方針のあるフロンターレだが、コーチ陣には“ある共通の特質”がある。フロンターレのU-10からU-18 まで、すべてのカテゴリーにまたがる「地域担当コーチ兼スクールアドバイザー」を務める藤原隆詞に話を聞いた。

「板倉たちが(U-12の)1期生として入ってきたときに、私も指導者(スクール・普及コーチ)としてフロンターレに入った経緯もあり、当時から彼らのことを知る機会がありました。クラブが育成に一生懸命に取り組んでいるのは間違いないのですが、後付けで『自分たちが指導したからだ』という主張はいくらでもできますし、『彼らがうちのクラブにいたからプロになって活躍した』というような考えではいけないと思っています」

小学生年代の子どもたちと接するサッカー指導者の存在は、子どもたちの人間形成に大きな影響を与える。その尊い仕事に恥じぬよう、藤原は指導者としての研さんを積んできたという自負がある。“川崎”出身の選手たちの成長を自分たちだけの手柄にするようなことはしたくないと考えているからこそ、強調することがある。

「当時から、彼らの努力する能力は本当にすさまじいものがありました」

藤原だけが謙虚なのではない。前出の玉置も、板倉、三笘、田中という卒業生たちの成長について語るとき、必ず髙崎康嗣の名前を挙げるのだ。髙崎は2006年に設立したU-12 の初代監督であり、2022年シーズンにはJ3のテゲバジャーロ宮崎で指揮を執った人物だ。玉置はこう語る。

「下の年代ではボールをいかに扱うかというところから始めて、そこから一対一で負けないためにはどうしたらいいか、数的不利でも負けないためにはどうしたらいいか、というようなアプローチをしていきますが、クラブのベースや幹の部分は“ボールを扱う技術”です。そこはずっとブレません。髙崎さんはすごく細かいところまでこだわる方でしたが、その指導の成果は大きかったと思います」