第3位:『マッド・ハウス』(2019年)
極めて現代的なカルト・コミュニティーの在り方を描いたスリラー映画としては、『マッド・ハウス』(2019年)が挙げられよう。なにせ本作の舞台は〝理想の集合住宅〟。
とある集合住宅の内覧会を訪れ、のちに書類選考を経て、めでたくその超豪華物件へと入居することになったヒロイン。が、その実態は独自の規律に基づき、相互監視、拷問、私刑によって徹底的に住宅内の秩序を保たんとする、カルト共同体の根城。入居者個人としての権利や尊厳など、二の次、三の次の環境に愕然とするヒロインだったが、たちまち彼女は捕らえられ、アメとムチを巧みに使い分けた体罰によって、次第に洗脳されていく……。
特筆すべきは共同体を構成する他の入居者、すなわち信者たちの言動。苦痛と恐怖でむせび泣くヒロインに対し、「私も昔はあなたと同じだった」「僕も反抗したことはあったけど、今は理解している」などと共感の意を示し、かつてヒロインと同じ体罰を受けた際に残ったという傷跡を、あえて晒す。そしておそらくは本心からヒロインを慰め、自分たちの仲間に迎え入れようとしているのだ。
神や悪魔の類いは特に信仰しておらず、過去にとある人物(故人)が執筆した『共同体の力』なる書物を基に、カルトが成り立っているという点、および現リーダー(管理人)も世代交代を繰り返しているらしき点が興味深い。
静かで淡々とした作風ながら、異様な生々しさが面白いカルト映画である。