父・忍と同じような境遇だった母・朋美
忍をはじめとした5人の子供たちは乳児院から児童養護施設に預けられて育つことになった。A子はといえば、風俗店につとめて遊び回る一方、施設に暮らす子供たちの面会に来ることはほとんどなかった。
たまに何の気まぐれか、長男の忍を週末だけ引き取ったと思ったら、施設からもらったお小遣いを奪ったり、夜の街を連れ回して飽きると突き放したりした。ソープランドの客に忍を会わせることもあったらしい。A子にとって忍は、玩具のようなものでしかなかったのだろう。
そんな親子関係のゆがみからか、小学生くらいの頃から忍にはゴミを食べるなど異食症が現れていた。また、人に対するいじめやいたずらなど問題行動が散見され、虚言癖も著しかった。
高校1年で学校を中退後、忍は施設を出て、母・A子とアパートで暮らすことになる。ここでソープランドにつとめるA子の不埒な振る舞いを嫌と言うほど見せられたようだ。数か月おきにアルバイトを転々とした末にたどり着いたのがホストクラブのホストの仕事だった。
一方、妻の朋美もまた、忍同様に5人きょうだいであり、母親のB美も夜の街で働く女性だった。
B美はホステスをしていた22歳の時に未婚のまま朋美を出産、相手の男性と籍を入れた後に長男を生んだもののすぐに離婚。その後、別の男性との間に3人の子供をもうけた。
彼女はシングルマザーとして家庭を支える立場にあったが、粗暴な性格で近隣住民と頻繁にトラブルを起こした。そのため、ほぼ2年おきに引っ越しを余儀なくされた。長女の朋美は友達をつくることもできず、次々と生まれる妹や弟の世話をしていたようだ。今で言えばヤングケアラーだろう。
このような破綻した生活の中で、朋美の人格形成がうまくいかなかったことは想像に難くない。小学校高学年の頃からいじめ、不登校、虚言、窃盗といった問題行動が目立つようになる。そして高校2年の時に「妊娠した」と嘘をついて先輩から金を奪い取ったことが露見して退学になった後は、母親同様に夜の街へと流れていった。
ホステスとなった朋美が20歳の時に、母親とともにホスト遊びにのめり込んで出会ったのが、3歳上の新人ホストだった忍だ。この時、すでに朋美は不倫相手との間に娘をもうけていたが(養育費だけもらって別れた)、忍とすぐに肉体関係になり、1か月も経たないうちに同棲を開始した。