アーティストへの愛とリスペクトと感謝が溢れる空間

コロナ禍となる5年前。45周年を迎えたユーミンのツアーは、全国アリーナ規模の会場にて、ユーミン史上初のベスト選曲による、「松任谷由実 TIME MACHINE TOUR Traveling through 45years」なる、ものすごいファンサービスなものだった。

ニッポンの女の子はみんな、心に1曲「私のユーミン」を持っている_3
45周年でもベストアルバムをリリース。数多くのベスト盤がありつつもマンネリにならないのがスゴイ

縁あって訪れた日本武道館での夢のような約3時間は今でも忘れられない。
会場中央に円形のステージ上で多種多彩な演出とともに縦横無尽に歌い踊るユーミン。圧巻の一言。

だけど、何よりも素晴らしいのはそのサービス精神だ。
どんだけ手間と費用がかかってんのか、コレ……というステージはアンコールも含めて約3時間、ただただ釘付け。

「かんらん車」の荘厳すぎる演奏とプロジェクションマッピング、バブル感爆発の「ハートブレイク」……惜しげもなく晒す脚線美は健在だし、まるでコンピュータのような伸びのある声は、曲が進むごとにどんどん迫力を増してくる。

そして白眉は、アンコールの「やさしさに包まれたなら」。
「カンナ8号線」で会場をぐわーっと盛り上げた後に、じゃあ、みんなも一緒に歌ってね、と届けられた「やさしさに包まれたなら」。

武道館、13000人余りによる大合唱。
鳥肌が立った。
はっと気づくと自分も声を張り上げて歌っていた。

ライブ会場で聴衆のみんなが大声で一緒に歌うということ自体はそんなに珍しいことではない。
でも、あの会場の一体感は…ちょっといわく言い難い。

シンプルなピアノ伴奏とユーミンの声。そこに寄り添うように響くみんなの歌声。ユーミンへの愛とリスペクトが溢れかえる。
歌詞の2番も3番もリフレインも、そしてちょっとした転調も節回しも後奏のハミングまで、全て完璧にみんなが歌ってる。

それぞれがそれぞれの歌への思いとユーミンへの感謝を込めて。
ユーミンも涙ぐんでいたけど、みんなも泣いてた。私も泣いた。

このとき63歳(!)のユーミンの夢は「続けること」だと言っていた。目標じゃなくて夢。
素敵だ。

ありがとう、ユーミン。
若く多感な頃、あなたの歌を聴いて恋だの愛だのにキュンとするほどピュアな女の子ではなかったけど、間違いなく私もあなたに育てていただいたひとりです。

ユーミンの神秘的パワーは絶対ある

ところで私はユーミンのインタビューをするという僥倖に2回ほど恵まれている。
その1回目は、入社2年目、アルバム「TEARS AND REASONS」のリリースタイミングでのインタビューだった。

その日のユーミンは黒いぴったりしたドレスに身を包み、胸元にはちょっと目立つネックレスをしていた。
スタジオに入って開口一番、
「今日は満月なのよね。だから月のパワーに負けないようにムーンストーンのネックレスをしてきたの」と微笑んだ。

インタビューを終えて、お疲れ様の後にいつものようにレコーダーで録音を確認した。当時はカセットテープを入れるテープレコーダーである。
ところが取材中ずっと、テープはきちんと回っていたのに、録れていたのは最初の3分ぐらいだけ。途中から変な風に声が乱れ始めて、その後はまったく録音できていなかった。

……血の気が引いたよ。
そこから1人スタジオに残って、ペンを握りしめてひたすらひたすら思い出せるだけ書き起こした。

今だから言える懺悔。

本当に不思議な出来事だったけど、あれは絶対満月のパワーなんかじゃなくて、それを跳ね除けようとしたユーミンのパワーの影響だったんじゃないかなぁと、今でも思っている。

文/志沢直子