半導体で大きくなる「地政学リスク」、日本はどう対応するのか

ここまでの説明でお分かりのように、半導体不足には多数の要因が絡む。中でも地政学的なリスクは大きい。先進半導体を作れる企業が台湾・韓国に集中しているため、やはり中国の影響が懸念される。アメリカやヨーロッパ、そして日本に新しく半導体工場を作ろう、という動きが増えているのは、最先端の半導体から普及型のものまで、調達リスクの改善を目指す動きでもある。

ここでちょっと気になることがある。

20年以上前、日本は「半導体大国」といわれていた。だが現在、半導体生産の面で日本は重要な国ではなくなっている。例外は、ソニーなどを中心としたイメージセンサーの製造と、キオクシア(旧東芝メモリ)のメモリー事業くらいだろうか。以下は経済産業省が2021年6月に公開したレポート(https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210604008/20210603008-4.pdf)からの引用だが、シェア低下は著しい。

かつての「半導体大国」からの凋落 日本に半導体不足を解消する力はあるか_2
経済産業省が2021年6月に公開したレポート。1988年にシェア50%を超えていた日本の半導体産業は、2019年に同10%にまで落としている
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日本が凋落した理由は複数あるといわれている。1980年代の日米貿易摩擦でのアメリカに対する譲歩が理由、とする人もいれば、メモリーの生産に注力しすぎて、CPUやGPUなどの付加価値が高い製品を作る能力で出遅れたから、という人もいる。また、多数の企業が分散してシェア争いした結果、1社集中で大きな投資を進めた韓国などに経営効率の面で負けた、という人もいる。おそらく複合要因なのだが、筆者はやはり「投資戦略・統合戦略が後手後手に回った」のが大きかったのではないか、と感じる。

現在、TSMCとの合弁を軸に、国内に大きな半導体投資を行う動きがある。熊本の新工場建設に4000億円単位の投資、というのは小さい額ではないが、日本を再び半導体大国にする……というには額が小さい。狙いも、ソニーやデンソーなどが必要としている「最新ではないが必要な半導体」の安定供給、という側面が大きい。国内での先進半導体製造の研究にも投資計画はあるが、急激に日本の立場が改善するとは考えにくい。

産業振興と米中の摩擦を含めた地政学的リスクの中で、日本がどう舵取りをすべきなのか。筆者としては、出資額や方向性に対してより大胆な決断が必要とされている時期ではないか、と感じる。

文/西田宗千佳