“罵声に1時間耐える”訓練の炎上リスクポイント

今回は、宙と同じく自衛隊候補生として入寮した武藤(一ノ瀬颯)にフィーチャーした3話の終盤、トラウマを払拭するための”訓練”として描かれたシーンを例に挙げたい。

武藤は入寮してからも寡黙で感情表現が乏しく、同班の仲間とも交流を避けていた。その背景には、家庭環境に恵まれず父親からネグレクト/暴力を受けており、極限状態まで追い込まれたときに父親を刺し殺そうとしてしまった過去があった。

実際には、未遂で終わったものの、その事件をきっかけに父親は逮捕され、自身は養護施設へ預けられることになった武藤。大きな心理的負担を抱えた武藤にとって、積極的に他人とのコミュニケーションをとるのは難しいことだったのだ。

そんな武藤は、訓練が続くある日、パワハラ紛いの大声で指導を繰り返す上官に刺激され、暴れ出してしまう。上官の姿が父親と重なり、自分でもコントロールが効かなくなってしまったのだ。このままでは仲間に迷惑をかけると気に病んだ彼は、秘密裏に逃げ出そうとしたところを宙に発見される。

そこで武藤の口から、過去に父親を本気で刺し殺そうとしたが返り討ちに遭ったこと、まだ自衛隊員になるため頑張りたいと思っている本心を聞いた宙。その後、同班の仲間を集めて武藤を囲み、“罵声に1時間耐える”訓練を決行した。

一見して炎上リスクまみれの演出に思えるこの訓練シーン。「安易に真似をしないよう注意書きが必要では?」と声が上がるのは当然だ。しかし、1話からこのドラマを見守ってきた視聴者からは、武藤のトラウマや仲間たちの愛情を踏まえた、好意的な反応が多かった。

実際のところ、その後の仲間のフォロー、この訓練方法しかなかった理由にまで丁寧に言及したことで、ドラマとしての深みを増す結果となったと筆者はみている。

SNSによってすぐにドラマに対する評価が伝播する現代において、炎上リスクを考慮しながらもおもしろいドラマを描くことに成功した例とも言えるのではないか。