『用心棒』は黒澤明作品ビギナーにオススメ

これまで黒澤作品と聞くと、白黒で、いささか難しい印象があった。しかし、『羅生門』での三船敏郎の凄みや黒澤明の大胆な構成が脳裏に焼き付き、1本また1本とDVDを借りて見るようになっていった。

そんな筆者から、これから黒澤作品を見てみたいという人にオススメなのが『用心棒』(1961)だ。
脂の乗りきった黒澤明が描いた渾身の娯楽作である。
主演の三船敏郎は、この作品での演技が評価され、第22回ヴェネチア国際映画祭の男優賞を受賞している。

黒澤作品の入門編はコレ!三船敏郎のカリスマ性に惚れる『用心棒』_2
三船敏郎。写真はヴェネチア国際映画祭を訪れたときのもの
Globe Photos/アフロ
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舞台は、桑畑三十郎と名乗る浪人(三船敏郎)が訪れた荒廃した宿場町。
ここではやくざ稼業の清兵衛一味と丑寅一味が対立し、抗争の真っ只中。
三十郎は飯屋の亭主に早くここを去れと忠告を受けるが、両者を巧みに騙しながら自分を用心棒にしないかと持ちかけて翻弄。やがて三十郎をめぐって、ふたつの勢力は対立を深めていく。
一度は窮地に追いやられるものの、最後は両者を成敗して町を去っていくという、痛快なストーリーだ。

この作品の魅力は、なんといってもユーモアと緊張感のコントラスト。
三船敏郎演じる三十郎は、2組のやくざの抗争を高見やぐらで見物したり、柄杓からそのまま水を飲んでみたりと、とぼけた顔を見せる反面、手に汗握る殺陣ではガラリと形相を変えるので、見ているこちらは固唾を飲んで見守ってしまう。

落語家の桂枝雀は、「笑いは緊張と緩和によって生まれる」と提唱した。この映画は、三船敏郎の漢気とユーモアが、スクリーンを通して伝わってくるからこそ成立しているように感じた。

2021年に一般公開された映画『サマーフィルムにのって』(2020)では、伊藤万理華演じる主人公のハダシが勝新太郎の殺陣に興奮し、「勝新が尊すぎて〜」と言うセリフが印象的だった。この感覚と同じく、『用心棒』の三船敏郎のカリスマ性は、時代を超えて自分にビシバシと伝わってきた。

クラシック映画の中に今も存在する銀幕のスター達。
推しを見つけるべく、映画に「会いに行く」のも面白いのかもしれない。

『用心棒』(1961)上映時間:1時間50分/日本

2組のやくざが対立する宿場町に流れ着いた桑畑三十郎(三船敏郎)が、用心棒として雇われながらも、両者を衝突させて壊滅させる娯楽時代劇。続編の『椿三十郎』(1962)も作られた。1964年にはセルジオ・レオーネ監督が本作を元にマカロニ・ウエスタン『荒野の用心棒』を製作し、大ヒットを記録した。