死ぬほど好きだったトム・ハンクスとの共演
――多くの役者がこの役をやりたがったと聞いています。オーディションはどんな様子だったんでしょう?
今までに経験したことのないオーディションだった。まず僕は、オーディションを受ける前の段階からエルヴィスの軌跡をたどることにした。エルヴィスのリサーチに没頭し、手に入る限りのドキュメンタリーを見て、資料や本を読みふけった。本当に徹底的にやったんだ。そして、バズに『アンチェインド・メロディ』を歌っているビデオを送りつけたら、彼から連絡が来て、ロサンゼルスからニューヨークに向かったんだ。それからバズと毎日、いろんなことを話し合った。エルヴィスについてはもちろん、人生について、映画について、あらゆることを語り合った。更に、台本を読み、歌も歌い、クリエイティブなかたちでエルヴィスを掘り下げていった。驚くほど刺激的な体験だったね。それを5か月間続けた僕は、やっと公式のスクリーンテストを受け、この役を手に入れたんだ。
――それは凄いですね! 徹底的にリサーチした結果、エルヴィスはどんな人物だと思いましたか?
そうだな……ひと言でいうと「複雑」な人間、になるだろうね。人間はそもそも複雑な存在だと思うけれど、エルヴィスは本質的に二面性を持っていたと思う。礼儀正しく優しいアメリカ南部の少年のようでもあれば、ステージで転がったり、唾を吐いたり、まるで野獣のようにふるまう。また別のときには物腰が柔らかく、シャイでもある。とても極端だったように感じるんだ。人間同士の関係性においても、そういう複雑な部分を見ることができるよね。
――エルヴィスと、彼のマネージャーであるトム・パーカーの関係性そのものが、かなり歪んでいるというか複雑ですよね。
そう、とても複雑だよ。パーカーがエルヴィスを見つけてスターに育て上げたことは間違いない。TV出演を実現し、マーケティングに力を入れ、彼のグッズもたくさん販売した。精神面でも、若くして母親を亡くし、心の拠り所を失った彼を支えてくれたから、パーカーなくして、我々の知るエルヴィスはいなかったかもしれない。とはいえパーカーは、ある時期からエルヴィスを利用するようになり、彼から自由を奪うようになった。そのときのエルヴィスは、まるで檻に入れられたライオンのようだったと思う。そう、とても複雑な人生を送った複雑な人間だったんだ、エルヴィスは。
――そのパーカーを演じたのはトム・ハンクスです。彼との共演はいかがでしたか?
素晴らしかったよ。第一、僕はトムを死ぬほど大好きなんだ。そんなスペシャルな役者が、初めて会った僕を大きなハグで迎えてくれた上に、タイプライターをくれたんだ(ハンクスは旧式のタイプライターのコレクターで、関係者にプレゼントすることでも知られている)。それから僕たちは、そのタイプライターで手紙を書き、エルヴィス&パーカーとして“文通”しながら役柄を掘り下げていったんだ。これも稀有な体験だったよ。