カモシカを襲うツキノワグマ…猟師たちが目撃した光景
しかし、さらに数年の時を経て、猟師たちは相次いで現場を目撃しはじめることになった。春の雪崩に逃げ遅れたカモシカの遺体を、雪のなかから掘り出して肉をあさるクマの親子の姿、あるいは春の有害駆除や予察駆除でクマの巻き狩りを行ってみると、ときおりカモシカが白目をむいて斜面を駆け上がってくることがある。
そのような時には、必ずその猟場のなかにクマが入っている事実を確認することになった。つまり、その猟場のなかで、カモシカがクマとケモノ道上ではち合わせをし、カモシカが必死でクマから逃れてきているということがわかってくる。
また直接、クマを探すために山々の斜面などを双眼鏡で見ていると、カモシカの死体を引きずって歩くクマの姿を目撃することが多くなり、クマによるカモシカの捕食は猟師たちの間で常識化していくことになった。
なかには、「カモシカっていう動物は縄張りがきついんだな。だから場所の取れない弱いカモシカはいじめられるし、食べるものも確保できなくて弱ってくる。そういうものが雪崩にやられたり、クマに襲われるんでねぇかな」と自分なりの意見を語る猟師も出はじめるようになった。
ただ、ヒグマの肉食化はまだしも、ツキノワグマの肉食の話をすると、1980年代の段階では鼻で笑う人々もいた。当時の一般の人たちのツキノワグマに関する理解は、地域の猟師たちの生々しい経験談に比べると非現実的で牧歌的なものであった。
研究者のなかにも「クマが肉食をするなんてあり得ない」と語る人もあったほどである。少数ではあったが、ツキノワグマは肉食どころか魚肉さえ摂取しないという意見すらあった。
それは、野生のクマに関する観察事例が極めて少なかったことが理由として挙げられる。研究者たちがクマの肉食を認めるようになったのは、猟師たち同様に豊富な行動データの入手と、研究者自身によって相次いで捕食行動が観察されるようになってからのことであった。
しかし、このようなことからも気付かされるように、私たちは自然のなかで起きている一つひとつの事実を冷静に見ること、確認することがいかに大切であるかが理解できるだろう。
私の敬愛する猟師や研究者たちは、少しの事実から思いを膨らませて物語をつくり出すということはしない。絶えず事実を確認し、抽出されたデータを手がかりとして、現実にそこで何が起きていたのかを冷静に見つめる眼差しを持っている。「やたらに思うな、現実を冷静に見つづけろ」、彼らは決まってそのように言うのである。













