「ラジオDJ」の役割

田家 多いときでレギュラー13本やってましたけど、78年くらいに構成作家の仕事にはいったん区切りをつけました。

鈴木 それはなぜ?

田家 深夜放送が変質し始めたから。それまでの自由さがなくなっていったんですよね。やっちゃいけないことがだんだん増えていった。下ネタが規制されて、政治的発言もダメになって。当時は「放送禁止曲」というのがあって。「要注意歌謡曲リスト」っていうのがあったんです。

鈴木 赤い鳥の「竹田の子守唄」とか? 一説にはあくまで自主規制であり、実際にはそういうリストは存在しないという話もありましたが。

田家 いや、実在しました。犯罪、政治、エロはダメだっていう。もちろん、差別用語はダメですけど、そういう規制をしていくうちに普通の番組になっちゃったんです。同時に、深夜番組が若者に人気になったことで、それまで縁のなかった芸能人も利用するようになった。

鈴木 80年代に入るとアルバムのプロモーションみたいなアーティストの出演も増えましたね。

田家 ある意味、プロモーション媒体になっちゃった。新曲の宣伝に協力しますってことですけど、ラジオ側からすれば、「ラジオがヒット曲を生んだ」という事象を作りたいという狙いもあった。ラジオの媒体価値をもう一回、自分たちで示そう、証明しよう、みたいな狙いですね。

鈴木 言い換えると、「ラジオDJ」という仕事の喪失と言いましょうか。自分の考えで曲を選んでかける人が少なくなってしまった。70年代はもっとDJが選曲してましたよね。

『吉田拓郎から始めるロックスター列伝』田家秀樹・スージー鈴木(インターナショナル新書)「吉田拓郎=フォーク」は日本の音楽史上最大の誤解である。拓郎、沢田研二、矢沢永吉ら、時代をつくった13人のアーティストを通説から解き放ち、その功績や逸話を語り尽くす、全編語り下ろし対談本。
『吉田拓郎から始めるロックスター列伝』田家秀樹・スージー鈴木(インターナショナル新書)「吉田拓郎=フォーク」は日本の音楽史上最大の誤解である。拓郎、沢田研二、矢沢永吉ら、時代をつくった13人のアーティストを通説から解き放ち、その功績や逸話を語り尽くす、全編語り下ろし対談本。
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田家 亀渕昭信さん(ニッポン放送の元ディレクター、DJ、のちに社長)は自分でやってましたよね。

鈴木 私は亀渕さんと何回か話をさせてもらったり、ラジオに出させてもらったりしたことがあるんですけど、あの人はめちゃくちゃ洋楽に詳しくて、67年の歴史的音楽イベント「モントレー・ポップ・フェスティバル」にも行ってるんですね。66年のビートルズの来日公演のときに朝妻一郎(現フジパシフィックミュージック会長)と一緒にビートルズのレコードのカタログを作ったら、マネジャーのブライアン・エプスタインに「これは世界で一番よくできている!」って驚かれたという。

そのくらい音楽に詳しいのに、『オールナイトニッポン』などでのトークは軽妙で、選曲は幅広くオールラウンド。決してマニアックな話をしないんです。だから、バラエティショーみたいな楽しさがある。あのオールラウンドな感じのラジオ番組というのは絶えて久しいですよね。

田家 東京オリンピック後に深夜放送が始まったこと、90年代に新しいFM局が増えて洋楽がヒットしたこと、そして、2000年代以降はネットとサブスクが普及したこと。さまざまな転機がありましたけど、ラジオという媒体はなくならないだろうって思います。生放送を同じ時間に聴く共有感はなくならないし、音声メディアが多様化しているからこそ、パーソナリティのしゃべりの質は今のほうがより求められてるんじゃないか。

音楽を流すだけじゃなくて、「語る言葉」が必要なんだっていう。誰が何をどんなふうに紹介したのか。紹介の仕方次第で、その曲への興味が膨らむ。これだけ自由に、いつの時代の音楽でも聴けるようになると、むしろそこが音楽を聴くための目安になってくるんじゃないかって。

鈴木 おお、いいことおっしゃった! 

田家 話術と人間味がネットを超えるというか。

(集英社クオータリー『kotoba』2026年秋号より一部抜粋したものです。本文の続きはkotoba本誌でご覧ください)

構成=永堀アツオ 撮影=タイコウクニヨシ

kotoba 2026年秋号
コトバ編集室
kotoba 2026年秋号
2026/9/4
1,900円(税込)
166ページ
特集 ラジオがそばにいてくれる
顔は見えない。映像もない。文字として残るわけでもない。
それでもラジオの言葉は、ときに本や映像以上に深く心に届き、
誰かの背中を押し、私たちの日常に寄り添ってくれることがあります。

いま、「聴く」文化は大きな広がりを見せています。
radikoやポッドキャスト、オーディオブックの普及によって、
新たなリスナーを惹きつけています。
なぜ私たちは誰かの声に耳を傾けるのか。
音声コンテンツはこれからどのような可能性を切り開いていくのか。
本特集では、ラジオと言葉の力、ラジオと本や漫画との関係、
そして音声メディアの未来まで、多彩な書き手や語り手とともに考えます。

Part1 ラジオの力、言葉の力
朝井リョウ×加藤千恵 『信頼できない語り手』の裏側
大西泰斗 「声だけはちょっと自信があったんです」
荻上チキ×武田砂鉄 ニュースをどう伝えるか
宮藤官九郎 愚痴とラジオの意外な関係
田家秀樹×スージー鈴木 音楽を語るラジオ
大森淳郎 戦時下、ラジオ人たちの苦悩と順応

Part2 ラジオと生きる
高橋源一郎 ラジオの子
ハライチ 10年続いた深夜ラジオの「エネルギー」
ヤマノエイ ラジオの漫画が描きたくて漫画家になった
佐倉綾音 「論理」を突き詰め「集団ごっこ」を生きる
タブレット純 ラジオは「通信機」のように
村上謙三久 ラジオ小説はなぜ増えているのか

Part3 ラジオ、次の100年へ
小川 哲×TaiTan×大森時生 ポッドキャストは歌である
アルコ&ピース 文化人の「やばさ」を暴くポッドキャスト
橋本吉史 「一生続けられるコンテンツ」の作り方
ぐんぴぃ×水野太貴 落語家と塾講師――二人が目指す「しゃべりの理想形」
村上謙三久 ポッドキャストをはじめてみた
ラジオ番組のリアルイベントはなぜ増えているのか
出版社音声レーベルの現在地
岡部匡伸 ラジオの形態進化史――日本ラジオ博物館を訪ねて

※〈とじ込み付録〉『さむわんへるつ』ポストカード付き!

【対談】

森 遊机×今井悠也 日本の独自文化 映画パンフがアツい!

【第二四回 開高健ノンフィクション賞 受賞作発表】
上村幸平 『始祖の大地』

【短期集中連載】
腹巻猫 劇伴哲学 藤津亮太
磯部 涼 ルポ川崎2

【連載】
大岡 玲 写真を読む
山下裕二 美を凝視する
山極壽一 ますます「サル化」する人間社会
石井光太 災害遺族をケアする 日本DMORTの挑戦
三宅陽一郎 文学がなければ人工知能はない
入不二基義 脳梗塞、のち哲学
小松由佳 〈新連載〉シリアへ帰る
舟木彩乃 〈新連載〉「いじめ」の心理学
足立倫行 古代史を考えなおす
橋本幸士 物理学者のすごい日記
キリーロバ・ナージャ マルチリンガル・サバイバル
町田麻子 ことば万華鏡 ミュージカルの訳詞の妙技
おほしんたろう おほことば

【kotobaの森】
著者インタビュー 陣野俊史『バンリュー フランス団地映画の軌跡』
マーク・ピーターセン 英語で考えるコトバ
大村次郷 悠久のコトバ
吉川浩満 問う人
町山智浩 映画の台詞

※南陀楼綾繁さんの連載「愛と憎しみの積ん読」は今号休載します。
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吉田拓郎から始めるロックスター列伝
田家 秀樹 (著), スージー 鈴木 (著)
吉田拓郎から始めるロックスター列伝
2026/8/7
1,144円(税込)
320ページ
ISBN: 978-4797681789
「吉田拓郎=フォーク」は日本の音楽史上最大の誤解である――。

語り継ぐべき歴史がある! 日本のロック、ポップスを創成期から取材している田家秀樹と、昭和歌謡から最新ヒット曲まで独自の視点での考察が人気のスージー鈴木。年齢もバックグラウンドも異なるふたりの音楽評論家が、13人のレジェンドたちを「通説」から解き放ち、その実像、功績、知られざるエピソードまで語りつくす、語り下ろし対談本。

「音楽を語る」ってこんなに楽しい!

(目次より)
第1章 「吉田拓郎=フォーク」は史上最大の誤解である
第2章 筋を通す”不良(アウトロー)”沢田研二
第3章 語れば語るほどハッピーになる矢沢永吉論
第4章 井上陽水、はぐらかしの美学
第5章 中島みゆきにノーベル文学賞を!
第6章 松任谷由実、「私は天才」の所以
第7章 桑田佳祐、「大衆音楽」の原点
第8章 平和を歌う「普通の人」、浜田省吾
第9章 佐野元春のインテリジェンスとユーモアとダンディズム
第10章 松田聖子と中森明菜の「音楽」だけを語ろう
第11章 忌野清志郎の楽しい「読後感」
第12章 ロックのビートを変えた氷室京介の声
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