「よく寝ている」が体調悪化のサインである可能性
まず注意しなければならないのが、標高の上昇による体調不良だ。
高所では気圧が下がり、空気中から体内に取り込める酸素の量も少なくなる。急性高山病では、頭痛や吐き気、食欲低下、強い疲労感、めまい、睡眠障害などが起きるが、乳児は「頭が痛い」「気持ちが悪い」と言葉で訴えられない。
小児科医のりんごさんは、「大人であれば頭痛や吐き気を自覚し、登るのをやめる判断ができます。しかし、赤ちゃんが示せるサインは、泣く、機嫌が悪くなる、母乳やミルクを飲まなくなる、反応が鈍くなるといった変化に限られます」と説明する。
さらに怖いのは、元気がなくなって泣かなくなった状態を、保護者が「山の空気が気持ちよくて眠っている」と受け取ってしまうことだという。
「普段より長く眠っている、起こしても反応が鈍い、ミルクを飲まない、顔色が悪いといった状態は、単に機嫌よく眠っているのではない可能性があります。ぐったりしている時点で、様子を見ながら登山を続けるべきではありません」(小児科医のりんごさん、以下同)
一般に高山病が問題になりやすいのは標高2500メートル前後からとされるが、発症しやすさには個人差があり、短時間で急激に高度を上げた場合などには、それより低い場所でも体調を崩す可能性がある。乳幼児については十分な研究データがなく、「何メートルまでなら安全」と一律に線引きすることはできない。
UIAA医療委員会の資料では、乳幼児を含む子どもの高所曝露について十分な研究データはなく、幼児では睡眠高度をできれば2500m以下にすることが望ましいとしている。
抱っこひもの中で気道が塞がれる危険性も
生後3か月前後は、まだ首が完全にすわっていない子も多い。登山道では段差や岩場、木の根、ぬかるみなどによって保護者の体が大きく揺れ、平地を歩く時以上に赤ちゃんの姿勢が崩れやすい。
「とくに下りでは、着地するたびに大きな衝撃が加わります。保護者が疲れて前かがみになったり、抱っこひものベルトが緩んだりすると、赤ちゃんのあごが胸についた姿勢になり、呼吸しづらくなるおそれがあります」(前同)
乳児は頭が大きく、首や体幹の力が弱いため、自分で顔の向きや姿勢を戻せないことがある。抱っこひもの中で顔が保護者の胸や衣類に強く押しつけられれば、鼻や口が塞がる危険もある。
消費者庁も、抱っこひもの使用中は、顔を保護者の体に強く押し当てないことや、子どもの姿勢、呼吸の様子をこまめに確認するよう呼びかけている。
実際に、抱っこひもを使っていた生後1か月の乳児が呼吸をしていない状態で見つかり、入院した事例も報告されている。
登山中は、保護者自身も足元やルートの確認に集中する。背負っている場合には赤ちゃんの顔色や呼吸を直接確認しにくく、異変の発見が遅れる可能性がある。転倒すれば、赤ちゃんの頭部や体が岩や地面にぶつかる危険も避けられない。













