山では暑さと寒さが短時間で入れ替わる

乳児は大人より体温調節機能が未熟で、周囲の気温の影響を受けやすい。体重に比べて体表面積が大きいため熱を失いやすい一方、抱っこひもの中では保護者の体温や衣服によって熱がこもり、暑くなりすぎることもある。

「登っている保護者は暑くても、動いていない赤ちゃんは風に当たり続けています。逆に、日差しの強い場所では抱っこひもの中に熱がこもります。赤ちゃんの体は熱しやすく、冷えやすいことを忘れてはいけません」(前同)

山では天候が変わりやすく、日差しがあった場所でも、雲や風が出れば体感温度が急激に下がる。汗や雨で衣服がぬれたまま風にさらされると、体温を奪われる「汗冷え」も起きる。

乳児は「寒い」「暑い」と伝えられない。唇の色や顔色、手足の冷たさだけでなく、普段より反応が弱い、飲みが悪い、呼吸がおかしいといった変化を見逃さないことが重要だ。

世界保健機関(WHO)の新生児保温に関する資料でも、寒冷ストレスが酸素や糖の需要を高めることが示されており、体温調節が未熟な乳児では冷えへの注意が欠かせない。

近年ではクマ出没のリスクも(写真AC)
近年ではクマ出没のリスクも(写真AC)

救急車がすぐに来られないことも

山では体調が悪化しても、すぐに病院へ行けるとは限らない。携帯電話が通じない場所もあり、救助を要請してから医療機関へ搬送されるまで長時間かかる可能性がある。

大人だけなら歩いて下山できる程度のトラブルでも、乳児を抱えた状態では移動が難しくなる。保護者が転倒や捻挫をすれば、赤ちゃんを安全に運ぶ人がいなくなる危険もある。

「登山で考えるべきなのは、予定どおり歩けるかだけではありません。赤ちゃんの具合が悪くなった時や、親が動けなくなった時に、すぐ安全な場所へ戻れるかという視点が必要です」(前同)

風邪をひいている時や鼻が詰まっている時には、高度の変化によって耳の痛みが起きても、乳児はその理由を伝えられない。UIAA(国際山岳連盟)医療委員会も、体調の悪い乳幼児を急激に高所へ移動させないよう勧告している。