私たちも「暴落」という魔法の言葉を求めている
発信側だけでなく、受け手側の心理も暴落論を後押ししている。「暴落」という言葉は、圧倒的にアテンション(注目)を集めやすいのだ。
「特にネットの場合、YouTubeのサムネイルやネット記事のタイトルに『暴落』と入れるだけで、再生回数やPVが全く違ってきます。『これからのマンション市況を考えよう』というタイトルと、『いよいよ来たか暴落!』というタイトルなら、誰もが後者をクリックしてしまいますよね」
なぜ人は暴落のニュースを見たがるのか。そこには人間の「正当化の心理」と「不安」が入り混じっていると西岡さんは指摘する。
「10年以上相場が上がってきた中で、マンションを持っていない人からすれば、高値づかみして破産した人の話を聞いてほっとしたい、自分たちが買わなかった判断を正当化したい、という心理があると思います。近所で家を買って資産が2億円になった人の話より、無理して家を買って破産した人の話を聞きたいのが人間の本音です。
逆にマンションを持っている人は、自分のマンションがどうなるか不安だから見てしまう。結果として、構造的にどちらの層も『下がる』という情報に興味を惹かれてしまうのです」
地上波のテレビ番組では、視聴者からクレームが来るため極端な暴落煽りは避けられる傾向にあるが、YouTubeやネットメディアでは規制がなく、「やりたい放題」になっているのが現状だという。
確かにYouTubeで「不動産相場」と検索すると、「暴落」「急落」「大幅に下落」「市場崩壊」「バブル終了」「最悪の結末」という言葉が大書された、刺激的なサムネイルが並ぶ。
ところで西岡さん自身、過去に「暴落論者」に対して強い怒りを覚えた当事者でもある。彼が新築時に豊洲のタワーマンション「スカイズ タワー&ガーデン」を購入した際、ある著名な不動産評論家が記事で物件名が特定できる形で個別に「暴落」を予言したのだ。
「その評論家は、『駅から徒歩12分でアクセスが悪く、陸の孤島みたいなところだ。あんなマンションに資産価値が残るわけがなく、いずれ坪150万円になる』と書いたんです。さすがに、本当に嫌な気持ちになりました」
西岡さんは当時坪単価200万円台前半で買ったが、現在は600万円ほどに上がっている。予想は大外れだったわけだ。しかし西岡さんが問題視しているのは、予想が外れたこと自体ではない。
「『湾岸エリアは今後厳しいかもしれない』といった全体的な相場観を語るなら、評論家の仕事として全く問題ありません。しかし、明らかに特定のマンションとわかるような表現をして『ここは暴落する』と名指しするのは、評論家としてルール違反ではないでしょうか」
そこには、実際に生活している住人がいるからだ。
「ひょっとしたら、その記事を読んで不安になり、売却を急いで損をしてしまった住人がいたかもしれない。メディアの人間として言わせてもらえば、顔が見える当事者を傷つけるような言葉を使ってアテンションを稼ぐのはやってはいけないことで、専門家を名乗る資格がないと感じます」














