結城 僕の妻はほぼ本を読まなくて、会話の中で小説の話題を出しても常に無風なんです(笑)。でも、「今度『地面師たち』の原作者の方に会うよ」と言ったらむちゃくちゃテンションが上がったんですよ。あのドラマはそれだけの影響力があったんだなと思って、感動しました。
新庄 ありがたいですね。今はメディアが多様化して娯楽も増えまくって、可処分時間の取り合いじゃないですか。本を読んでもらうことが難しい時代だからこそ、他のメディアとうまく連携して本を届けなければいけないと思っています。まぁ、僕が『地面師たち』のドラマに関して何かやったことがあるかと言えば、大根さん(※映像化の企画を立案し、脚本・監督も手がけた大根仁)に「全てお任せします」と言っただけなんですけど(笑)。結城さんは『#真相をお話しします』が映画になった時、原作者としてどんなスタンスだったんですか。
結城 簡単な脚本のチェックだけはして、あとは映像のプロのみなさんにお任せします、という感じでした。企画の段階で「原作では各短編が独立していますが、新たに一本の軸を設けて長編にします」と言われて、その発想は自分にはなかったので一瞬戸惑ったんですが、映画にするならそれぐらい変えるのもアリかなと思ったんです。
新庄 潔いですね。
結城 これはぜひお伺いしたかったんですが、どういった経緯で地面師という題材を選ばれたんですか。
新庄 編集者が、「新庄さん、地面師の話やりませんか?」と言ってきたんです。
結城 そんな始まりだったんですか!?
新庄 不動産関係の人と編集者が飲んでいて、積水ハウス地面師事件の話になったらしいんですね。その事件のことは僕も興味があったし、編集者が新庄にこの題材は合うんじゃないかと思ったものは、合うに決まっているという短絡思考でした。
結城 炯眼ですね、新庄さんも編集者も。
新庄 私はデビューが純文学の賞だったんですが、いろいろと模索していく中でそっちでは生き残れない、じゃあエンタメだとなっていった。結局、自分にできることって限られているじゃないですか。例えば、結城さんみたいなミステリーは僕には書けない。朝井リョウさんとか小川哲さんみたいな小説も書けないし、恋愛小説を書けとは誰も言ってこない(笑)。でも、『地面師たち』みたいな物語だったらやれそうだなという感じで割り切っています。
結城 僕は超絶不可解なことが冒頭で起きて、その謎を解くために登場人物たちが動くというミステリーの書き方が体に染み付いているんですが、『地面師たち』は淡々と第一の詐欺に入っていって「ここではうまくいったけど、この先どうなるの?」と。登場人物たちの行く末を知りたい、という牽引力をここまで出せるというのは、作家として身に付けたい力だなと思っています。
新庄 こいつは何を考えているんだろうとか、どういうふうに生きてきたんだろうとか、そういうことばっかり考えているんですよね。功罪あると思うんですけど、そういうねちねちしたところに「純文」の残り香があるのかも。
結城 ねちねち、はしっくりきます。なるほどと今思いました。
新庄 じめじめ、かも(笑)。ナメクジの好きそうな環境の小説です。
フードデリバリーならではの謎解き
新庄 結城さんの『難問の多い料理店』は、飲食店なんだけれども客席がない、フードデリバリーに特化したレストランのシェフが謎を解いていく。そういうお店をゴーストレストランと呼ぶことは知っていたんですが、物語の舞台になるとは想像もしていなかったですね。どうやって発想していったんですか?
結城 まず「小説すばる」の編集者と話をしている中で、フードデリバリーを題材にすることが固まっていきました。連作短編にすることは決まっていたので、ゴーストレストランを拠点にするのはどうだろう、と。そこに出入りしている配達員たちを出先機関というか、助手として使っている人がいて、本人はレストランに常駐している。この形にすると今風の「安楽椅子探偵」になるぞと気が付いて、いけるかもと進んでいった感じです。
新庄 「このネタでミステリーがやれるんじゃないか?」と、普段からいろいろ考えているんですか。
結城 めちゃめちゃ考えています。特に『#真相をお話しします』の頃から、「今この時代だからこそ書けるもの」をアイデアとして押し出すようになったんです。これまで無数に書かれてきたミステリーの名作に太刀打ちできるとしたら、僕の戦い方はそこしかないんじゃないかな、と。例えばフードデリバリーを使ったミステリーなんて、江戸川乱歩はじめ、往年のミステリー作家たちは書いていないじゃないですか。そういう題材をミステリーにすれば、新規性も出るし、多少トリックが昔の作品と似ていたとしても大目に見てもらえる(笑)。
新庄 ミステリーの世界って、読者の目が肥えているじゃないですか。書くには相当ハードルが高いと思うんです。しかも連作だから、何個も話を考えなければならないわけですよね。
結城 僕もフードデリバリーで何話もやれるのかなって、最初は不安だったんです。ただ、配達員を毎回変えて、彼ら一人ひとりの事情とミステリーのネタを掛け合わせれば膨らんでいくんじゃないかなと気づいた時に、意外と書けるかも、となりました。
新庄 ミステリーの部分もいいけど、配達員のドラマの部分もいいんですよね。笹塚のアパートに息子と住んでいるシングルマザーの配達員の話(第三話「ままならぬ世のオニオントマトスープ事件」)は、グッとくるものがありました。
結城 嬉しいです。この作品を書くにあたって、実際に配達員をやられている方のブログを手当たり次第に読んでいったんです。配達員という仕事を選んだ一人ひとりの背景に、今の時代ならではのものを感じたんですよ。文字情報として直接書かれているわけではないんだけれども、行間から滲んでくるものがある。そこを自分なりに咀嚼して、登場人物たちの心情として出力していく感覚でした。
新庄 確かにフードデリバリーは時代を映しているかもしれない。誰でもできますもんね。
結城 一番腐心したというか大変だったのは、フードデリバリーならではの謎をどう作るかでした。全話がそういうタイプの謎である必要はないとは思っていたんですが、そこを捻り出さなければこの題材を選んだ意味がない。それで、同じ人が一〇回連続で配達に来る(第四話「異常値レベルの具だくさんユッケジャンスープ事件」)、空き部屋に置き配が届く(第五話「悪霊退散手羽元サムゲタン風スープ事件」)という謎を捻り出しました。なおかつ、謎をなんとか作れたなら、今度はそれを解決しなければならない。そこも、フードデリバリーならではの答えの導き方でなければと思っていたんです。
新庄 アイデアが出ない時って、どうするんですか。
結城 延々と歩きます。靴擦れして足が血まみれになって帰ってきて、フローリングの床に赤い足跡が点々……みたいなことがありました。じっとしていると、思考も止まっちゃう気がするんですよね。
新庄 分かる気がします。そういう時は一回、机から離れたほうがいいのかも。ただ、僕の場合は、飲みに行きます(笑)。















