少年マイケルが持っていた歌声の“不思議なギャップ”
――改めて、マイケル・ジャクソンは何が“すごい”人だったのでしょうか?
高橋芳朗さん(以下、同) 一言で表すとしたら、「ポップミュージックそのものの地図を描き替えた人」です。「キング・オブ・ポップ」と呼ばれ、「人類史上最も成功したエンターテイナー」としてギネス世界記録に認定されていますが、彼がすごいのは記録の大きさだけでなく、音楽を“総合芸術”のレベルにまで突き詰めた人でした。
――音楽を“総合芸術”のレベルまで突き詰めたとは、具体的にどういうことですか?
「音楽」「声」「ダンス」「映像」、そのすべてを一つに統合し、音楽を“聴かせる”のではなく、“体験”として届けた。さらに人種や国境を越え、黒人アーティストが世界のポップの真ん中に立てる道まで切り開いた。今のポップミュージックは彼が引いた線の上に成り立っていると言っても過言ではありません。
――「音楽」では、何が“異次元”で革新的だったのですか?
マイケルの音楽は、ひと言で「これは何のジャンル」と言い切れないところがあるんです。つまり、黒人音楽が育ててきたグルーヴやリズムの豊かさを土台にしながら、「ロック」のエネルギーと「ポップ」の普遍性を兼ね備え、さらに「ヒップホップ」の反骨精神や「ストリート」の感覚までも組み込んでいった。
いろんな要素が一つの曲の中に同居しているんです。しかも、それを特定の誰かに向けてではなく、誰もが入っていける「間口の広いポップ」として、完璧に計算して作りあげた点ですね。
――マイケルの「声」の魅力についても教えてください。
彼の歌声は、「幅」が広いのが魅力です。少年みたいに澄んだ高音から、大人っぽい色気のある低音まで出せる。まるで一人の中に何人ものシンガーが存在しているように、自由自在に操っている。あとは声を「楽器」として使いこなす能力です。
彼のトレードマークである「フー!」「ヒーヒー!」といった合いの手や息遣いは、単にメロディーの飾りではなくて、リズムやグルーヴそのものになって音楽の推進力を高めている。歌声が音楽の上に乗っているのではなく、組み立ての一部になっているんです。
――マイケルの歌声はやはり「ジャクソン5」(マイケルを含む兄弟5人の音楽グループ)時代から突出していたんですか?
そうですね。子どもならではの可愛らしさと、大人顔負けのグルーヴが同居した“不思議なギャップ”が少年マイケルのインパクトの正体だったと思います。
彼の歌声を初めて聴いたモータウンの社長が「この歌声には長い苦悩と悲哀の人生を生き抜いてきた男の持つ悲しさと情熱が感じられた。子どもなのに信じられない」と書籍に綴っています。
ダイアナ・ロスやスティーヴィー・ワンダーなど偉大な歌手の歌声を聴いてきた社長を圧倒させるだけの才能が、子どものころからあったということですね。













