最初に放映されたビデオクリップは『Video Killed the Radio Star』
1981年8月1日、午前零時過ぎ。“見えるラジオ”をコンセプトにした『Music Television』(以下MTV)の放送がスタートした。
音楽ビデオを24時間流し続けるプログラムとして、アメリカの若い世代や時代の空気を変えてしまうことは必至の画期的な出来事だった。
記念すべき最初に放映されたビデオクリップ(※1)がバグルスの『Video Killed the Radio Star』だったことは、今や洒落た伝説だ。
これによって、まず「MTVが観たいからCATVに加入する」という現象が起き始める。当初は田舎町から始まった動きが、1983年にはNYやLAといった大都市でも開局に至った。
※1:1981年8月1日の放送初日、集まったビデオはたったの165本。そのうち30本がロッド・スチュワートのビデオだった。他に多くを占めたのはイギリスの新人バンドのクリップ。これらはアメリカの地上波TV向けのプロモーションツールとして作っていたため、集めやすかった。
MTVが起こした「第二次ブリティッシュ・インヴェイジョン」
音楽を取り巻く環境やマーケティングも変わる。レコード会社にとってMTVは、新たなプロモーションメディアに位置づけられた。
つまり、売り出したいアーティストがいたら、これまでのように地道に各地をツアーで回るようなリスクや時間を取らなくても、印象的なビデオクリップさえ制作すれば、それ以上の効果が素早く期待できるようになったのだ。
特にデジタル機材を活用したポップなサウンドと、華やかなヴィジュアル性に富んだ英国の若手アーティスト(デュラン・デュランやカルチャー・クラブなど)がその恩恵を受けた。
英国勢がヒットチャートを独占するいわゆる「第二次ブリティッシュ・インヴェイジョン」と呼ばれる動きは、MTVがなければ起こらなかったムーヴメントだった。音楽は、聴くものから“観る”時代になった。
画面の中で軽快に喋ったりクリップを紹介したりするビデオ・ジョッキー(マーク・グッドマン、J.J.ジャクソン、ニナ・ブラックウッドなど)がMTV黄金期のムード形成に果たした役割も忘れてはならない。
音楽を視覚的に流すという拡散力は凄まじく、MTVは一気に若者文化/ポップカルチャーの主役に躍り出た。