自分の置かれた状況よりもチームの勝利を優先させる
準々決勝でのことだ。出場停止でベンチ入りすら叶わなかったイランのエースFWメフディ・タレミはチームに『熱量』を注入しようとしていた選手の筆頭だった。
キックオフのおよそ2時間前、駐車場からロッカールームへと続く通路に彼は立ち、チームメイトを待ち構えていた。アジアカップのレギュレーションにより、ベンチ入りしない選手はチームバスに乗ることを許されていなかった(26人の登録メンバーのうち23人がベンチ入りできるのがあの大会のルールだった)。
普通であればタレミのようなメンバー外の選手は試合に向けて準備をする選手たちをホテルで見送ったあと、スタッフとともに別の車でスタジアムへ向かうことになっていた。
しかし、イランのエースの行動は違った。スタジアムに一足先に乗り込み、ベンチ入りした選手たちを乗せたバスが到着する出口に立っていた。そして、バスから降りてくる仲間の一人ひとりと、固い握手やハイタッチを交わし、闘魂を注入していった。そういう行動によってイランの選手たちには情熱が注入された。そして、そんな相手に、日本は力負けした。
また、日本に勝ったあと、涙を流して喜びをあらわにしたイランの選手もいた。そんなところにも『熱量』の差は表れていた。
だからしばらく日本代表からは遠ざかっていた長友は、アジアカップ以降、代表に呼び戻された。『熱量』不足が浮き彫りになった日本代表を変えるために。
では、その後の彼の行動はどんなものだったか。
一例となるのが、アジアカップの約7カ月後に行なわれた9月11日のW杯最終予選バーレーンとのアウェーゲーム。そのキックオフ直前のことだった。
スタメン11人が1列に並ぶその後方に、長友が姿を見せた。ちなみに、この試合で長友はベンチ入りメンバーからも外され、スタンドから観戦する立場だった。
しかし、そんなことは彼には関係ない。チームメイトのために何かできることがないか。その一心から長友はあそこに立っていた。そこで一通り仲間を鼓舞すると、試合前の静寂の時間は黙って気配を消した。だが、キャプテン遠藤の「行くぞ!」という号砲が鳴り響いた瞬間、長友は全力で叫んだ。
「行くよ、行くよ! うぁぁーーー、行くぞ!!」
同じようにベンチ入りメンバーから外れた中堅や若手の選手たちが険しい表情でスタンドから観戦していたのとは対照的だった。ただ、若手選手たちが悪いのではない。
自分の置かれた状況よりもチームの勝利を優先させる長友の行動が異色なのだ。













