「そもそも桜蔭も勝手にデカい建物を建てておいて…」
「擁壁とその上にある校舎が倒壊する恐れがある」という主張の妥当性は判断できないが、地裁判決では顧みられなかったようだ。また、3つ目の公開空地についても、都市部の再開発では珍しいものではない。
2つ目の教育環境の悪化については、至近距離に高い建物を建てられることで圧力を感じるという向きは確かにあるだろう。一方で、付近を歩くとよく分かるが、そもそもこのエリアにおける桜蔭の校舎の存在感はかなり大きい。
特に23年に完成したばかりの「新東館」は周辺の建物に比べても大きく、圧迫感を与えていた。犬の散歩をしていた高齢の男性に話を聞くと、「そもそも桜蔭も勝手にデカい建物を建てておいて、自分たちの隣は嫌だというのは少しワガママなのでは」と吐き捨てた。地域一丸となってタワマンに反対しているというわけではなさそうだ。
ちなみに、盗撮や覗きのリスクについてだが、そもそも桜蔭から直線距離にして300メートルの位置に東京ドームホテルがあり、双眼鏡や望遠カメラを使えば、覗こうと思えばいくらでも覗ける状況にあるということは記しておきたい。
身元がわかる分譲マンションからわざわざ盗撮や覗きをしたいという奇特な人間よりも、不特定多数が利用できるホテルのほうがよほど危険な気がするが、これまで生徒を守るための手立ては打ってきたのだろうか。
桜蔭側の分が悪いワケ
ぱっと見は普通のマンションに見える宝生ハイツだが、その成り立ちはかなり特殊だ。
マンションが建っている場所は元は能楽の流派のひとつで600年以上続く宝生流の宗家に由来する公益社団法人宝生会のもので、もともと「宝生能楽堂」の敷地だった。1979年に建て替える際に分譲マンションと一体化させたという経緯がある。
老朽化したマンションの建替えは住民間での合意形成が難しいことで知られるが、宝生会が一部の土地を持っていることから、通常のマンションに比べてスムーズに進んだという経緯がある。
新しく建つタワマンにも能楽堂を併設する予定で、伝統文化を次世代へと承継させていくために不動産を有効活用していくという姿勢が窺える。桜蔭が「うちは伝統校だ」と上から目線で噛みついたところで、分が悪いと言わざるをえない。
そもそも、学校と不動産事業者が揉めるというのは珍しい話ではない。
カネで解決した雙葉学園のケース
同じく東京の四谷に立地し女子御三家の一つである雙葉学園では2017年、校舎の隣地に三菱地所レジデンスがマンションを建てる計画が持ち上がり、同校との間で騒動となった。
同じく女子御三家の一角で番町に立地する女子学院でも、近隣にある日本テレビ旧本社跡地で高層ビル建設が計画され、現在進行形で紛糾している。都心に立地する伝統校の周辺は土地価格が高騰しており、億ションやオフィスを建てるにはちょうどよいのだ。
桜蔭側は東京地裁の判決を不服として控訴したため、法廷バトルは高裁へと進むことになる。判決がどうなるかは分からないが、当初25年4月としていた着工予定がさらに伸びることは確実な情勢だ。
ちなみに、法廷闘争に頼らずに事態を収束する簡単な手法が一つだけあることはあまり知られていない。前述の雙葉学園のケースでは、マンション建設を阻止するため、学校側が保護者や卒業生、関係者から募金を募り、その土地を購入したのだ。現在、その土地は校庭として活用されている。
今回、法に訴えるという道を選んだ桜蔭だが、高裁で判決をひっくり返すのは容易ではない。資本主義社会において「口は出すがカネは出さない」という姿勢で不動産開発を止めるのはなかなか難しいのも事実。
桜蔭といえば実業界や法曹界、医学会に多数の裕福なOGがいることで知られるが、彼女たちの財布の紐は堅いのだろうか。
文/築地コンフィデンシャル













