同性婚反対運動と「保守女性運動」の高まり
2013年、フランスでは同性カップルに結婚を認めるトビラ法、「みんなのための結婚」が成立した。これに対して大規模な反対運動を展開したのが、「みんなのためのデモ(La Manif pour tous)」である。
「みんなのためのデモ」は露骨な同性愛嫌悪を避けつつ、同性婚を家族、子ども、性差、さらには文明秩序の「危機」として描き出した。そこで前面に出されたのは、「子ども」や「父と母からなる家族」、そして「社会の根本的秩序」を守るという語りである。こうして同性婚への反対は、差別の主張としてではなく、「保護」の言語を通じて正当化されたのだ。
さらに、「みんなのためのデモ」 は、フランス右派における保守勢力と女性の関係を再編する重要な契機にもなった。この運動では、女性が組織運営やメディア上の表象において存在感を発揮した。
母であり、女性であり、子どもを守る存在であるというイメージが、運動の正当性を支える装置として機能したのである。同性婚反対運動をきっかけに、女性を中心とする抗議形態や、極右に近接する女性集団が新たに形成された。
この運動はフランスにおける「反ジェンダー運動」の重要な転機となった。争点は同性婚だけにとどまらず、性教育、ジェンダー平等教育、トランスジェンダーの権利、生殖補助医療などが、次々と攻撃の対象となった。これらは、個別の政策や権利要求としてではなく、社会全体の秩序を破壊するものとして描かれた。
すなわち、同性婚反対運動は、ジェンダーやセクシュアリティをめぐる一種のモラル・パニックを引き起こしたのである。モラル・パニックとは、本来は限定的な社会現象や少数派の権利要求が、社会全体の価値、秩序、未来を脅かすものとして過剰に構築される政治的・メディア的反応を指す。
2013年当時の国民戦線(現・国民連合)は、「みんなのためのデモ」への公式な賛同には慎重な姿勢を示しながらも、党の議員は実質的に同デモへ参加していた。マリーヌ・ルペンもまた、成立済みの同性婚には一定の留保を示しつつ、政権を取れば同性婚法を廃止すると述べていた。国民戦線は、同性婚反対をめぐるモラル・パニックを、自らの政治的資源として取り込もうとしたのである。













