封鎖前に積み出された船がまだ届いていた時期の話

一方、ナフサ不足の報道を受けて川下では何が起きていたか。シンナーや潤滑油の在庫が尽きることを恐れた流通事業者や需要家が、こぞって大量発注に走った。政府の資料自身が「供給不安を抱く流通事業者や需要家が大量注文した」と認めている。

封鎖前の在庫とパニック買いが重なって、3月の出荷量は膨らんだ。それが116%・142%という数字の正体だ。

ホルムズ封鎖の本当の影響が社会に出るのは、中東産の供給が途絶え始める4月以降だ。大臣が「前年以上に供給している」と胸を張った数字は、封鎖前に積み出された船がまだ届いていた時期の話だ。

全然安心できる状況ではないのは、財務省の貿易統計を見れば一目瞭然だ。4月のナフサ輸入量は前年同月比47%減。ほぼ半減した。ところが輸入金額は前年を上回った。

量が半分になったのに金額が増えた。統計をもとに試算した輸入単価は前年同月比で約64%増、1キロリットルあたり約10万円超。2022年のピーク約85,000円をも大幅に上回る過去最高水準だ。

ここまで高騰する、三つの理由

なぜここまで高騰するのか。理由は三つある。

一つは輸送コストの急増だ。喜望峰を迂回するルートは通常より30日以上長く、燃料費・チャーター料が跳ね上がる。

二つ目はスポット調達の割高さだ。長期契約が使えない分、割高なスポット市場で買わざるを得ない。

三つ目は需給のタイト化だ。中東産が消えた分、米国・アルジェリア・ペルーに買い手が集中し、売り手優位の市場になっている。

輸入単価が64%上がれば、当然ながらそのコストは川下へと向かう。包装フィルム、容器、塗料、接着剤——ナフサを原料とする製品は私たちの生活のあらゆる場所に潜んでいる。石油化学工業協会の会長は今年春、「相当な価格アップで、やっていけないという顧客企業も出てくるだろう」と公言した。

ナフサ原料のごみ袋が品薄状態、特例で「指定外でもOK」の自治体が相次いでいる。環境省は「買いだめ控えて」とも
ナフサ原料のごみ袋が品薄状態、特例で「指定外でもOK」の自治体が相次いでいる。環境省は「買いだめ控えて」とも

しかし、消費者はもうコスト上昇を受け止める余裕がない。国民負担率は1970年度には24.3%だった。それが右肩上がりを続け、今や48%超。半世紀で倍になった。実質賃金は4年連続でマイナスだ。春闘で5%超の賃上げが続いても物価上昇に追いつかない。

財布の中身は増えているのに、買えるものは減り続けている。6月以降、食品・日用品の値上げが数百品目規模で押し寄せる。ナフサ由来製品のコスト転嫁が本格化する夏以降はさらに第二波、第三波が続く。家計はすでに限界点にある。