「AIが人類を絶滅させる」厄災を避けるために
マスクは初期の頃から、AIはやがて超知能を獲得して人類を絶滅させると警鐘を鳴らしていた。
同じ危機感をもつAI研究者は少なくないが、マスクが特異なのは、この災厄を避けるためにAI研究を規制・停止するのではなく、さらに開発を加速させなければならないとすることだ。なぜなら、人類が生き延びる道はAIと融合することしかないのだから。
「AIと人間の共生体になれば、我々自身がAIの集合体になるのだから、邪悪な独裁AIといったものを心配する必要はなくなる」とマスクは述べている。
人間の脳に電極を埋め込むブレイン・マシン・インターフェースを開発するニューラリンクは、人類の運命を賭けたプロジェクトなのだ。
だがここでマスクは、自身のSNSでの体験から、このネットワーク(サイバネティック・コレクティブ)が生身の肉体と同じように、ウイルスによる感染にきわめて脆弱であることに気づく。
SNSで広がっているのは人間の脳のバグをつくウイルスで、この「感染」を止めなければ、サイバネティック・コレクティブが「汚染」され、人類とAIは融合できず、超知能によっていずれわたしたちは絶滅する。もっとも危険なのは、ウォーク(社会正義に目覚めた左派)による「思想ウイルス(マインド・ウイルス)」だ。
「止められないかぎり、ウォーク・マインド・ウイルスは文明を破壊しつづけ、人類は決して火星にたどり着けなくなる」
「ウォーク・マインド・ウイルスを滅ぼせるかどうかだ、それ以外に重要なことはない」
などの言葉から、マスクがこの事態をいかに怖れているかが伝わってくる。こうしてマスクは、ほとんど24時間、中毒者のようにSNSに投稿しつづけ、人類の最後の希望を守ろうとしているのだ――という話になる。
私には、著者たちの分析が正しいかどうかを判断することはできないが、それでもこの大きな影響力をもつ人物を突き動かすイデオロギーを解明しようとした意義は大きい。それがどこまで説得力があるかは、読者が自分で本書を読んで確かめてほしい。
文/橘玲 写真/shutterstock













