「AIが人類を絶滅させる」厄災を避けるために

マスクは初期の頃から、AIはやがて超知能を獲得して人類を絶滅させると警鐘を鳴らしていた。

同じ危機感をもつAI研究者は少なくないが、マスクが特異なのは、この災厄を避けるためにAI研究を規制・停止するのではなく、さらに開発を加速させなければならないとすることだ。なぜなら、人類が生き延びる道はAIと融合することしかないのだから。

「AIは人類を絶滅させる」…それでもイーロン・マスクがAI開発を止めない“恐怖の論理”〈橘玲〉_4
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「AIと人間の共生体になれば、我々自身がAIの集合体になるのだから、邪悪な独裁AIといったものを心配する必要はなくなる」とマスクは述べている。

人間の脳に電極を埋め込むブレイン・マシン・インターフェースを開発するニューラリンクは、人類の運命を賭けたプロジェクトなのだ。

だがここでマスクは、自身のSNSでの体験から、このネットワーク(サイバネティック・コレクティブ)が生身の肉体と同じように、ウイルスによる感染にきわめて脆弱であることに気づく。

SNSで広がっているのは人間の脳のバグをつくウイルスで、この「感染」を止めなければ、サイバネティック・コレクティブが「汚染」され、人類とAIは融合できず、超知能によっていずれわたしたちは絶滅する。もっとも危険なのは、ウォーク(社会正義に目覚めた左派)による「思想ウイルス(マインド・ウイルス)」だ。

「止められないかぎり、ウォーク・マインド・ウイルスは文明を破壊しつづけ、人類は決して火星にたどり着けなくなる」
「ウォーク・マインド・ウイルスを滅ぼせるかどうかだ、それ以外に重要なことはない」

などの言葉から、マスクがこの事態をいかに怖れているかが伝わってくる。こうしてマスクは、ほとんど24時間、中毒者のようにSNSに投稿しつづけ、人類の最後の希望を守ろうとしているのだ――という話になる。

私には、著者たちの分析が正しいかどうかを判断することはできないが、それでもこの大きな影響力をもつ人物を突き動かすイデオロギーを解明しようとした意義は大きい。それがどこまで説得力があるかは、読者が自分で本書を読んで確かめてほしい。

文/橘玲 写真/shutterstock

マスキズム 新たな独占の時代
クィン・スロボディアン (著), ベン・ターノフ (著), 樋口武志(訳)
マスキズム 新たな独占の時代
2026/5/26
2,200円(税込)
320ページ
ISBN: 978-4868011460

もはや資本主義はマスク主義に変わった!

斎藤幸平氏が解説・絶賛!
「思考を操作されないために、
私たちに残された時間は少ない」

その先にあるのは自由か奴隷化か――
かつて大量生産大量消費の社会システムは、
「自動車王」ヘンリー・フォードになぞらえて
フォーディズムと呼ばれた。
いま、SNS、AI、宇宙、世界経済、そして全人類の脳を
「テクノキング」イーロン・マスクが支配しようとしている。
「マスキズム」という名の新たなシステムは
どうやってできたのか。
私たちをどこへ連れて行くのか。

「マスキズム」の特徴とは――
・自立しようとするほど、
Xやスターリンクなど「マスクのインフラ」への接続が必要になる
・国家と対立するのではなく、一体化して独占を強める
・すべてを技術が統治し、人間と機械が一体化する
・選民主義を生み、排他的な反グローバル主義を加速させる

イーロン・マスク個人についてではなく
「マスクを中心とした社会システム」に
初めて目を向けた全米騒然の話題作が日本上陸!

【目次】
はじめに マスク主義は21世紀のOSである
第1章 選民のためだけの未来主義
第2章 上位集合(スーパーセット)
第3章 サービスとしての主権
第4章 電気的自立(エレクトリック・オートノミー)
第5章 アテンション錬金術
第6章 機械と人間の融合
第7章 ヒトラー化するAI
第8章 Xという名の国家
終章 マスキズムの4つの未来

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