「風の噂で、岸田戯曲賞の候補に入るには…」
――大石さんは「傾向と対策」みたいなことは意識されていましたか。
大石 私の戯曲は完全に私自身の一人語りなので、これまで誰かに読まれることを想定せずに書いてきたんです。なので基本、地の文とセリフの区別もなく、ほぼ改行もないまま文字がダーっと続いていくスタイルの戯曲です。
が、風の噂で、岸田戯曲賞の候補に入るには、いわゆる演劇の戯曲然としたものに寄せないとそもそも対象にならないという話が耳に入ってきて。
蓮見 なんですか、その風の噂(笑)。
大石 ト書きでちゃんと状況説明をするとか、複数人で演じられることを念頭に置いてセリフはカギカッコで括って話者を立てるとか、従来の戯曲らしさを取り入れないと戯曲と見做されないっていう。あと、そもそも一人芝居は獲りづらいとも言われたこともあります。
蓮見 へぇ~。僕らも、演劇で評価されたければ「M−1」に出るのはやめたほうがいいって言われたことがありますよ。なんか鼻につく言い方だなって思いましたけど。
大石 私もそういうことを耳にすると、どうしても反骨精神っていうか、しょうもないからスタイル変えずにいこうと思うタイプなんですけど、『よだれ観覧車』のひとつ前に上演した『家系図』という作品について、岸田賞の事務局から候補作の選定準備にあたって戯曲を提供してほしいという依頼がきたんです。
そこで『家系図』の戯曲とともに「風の噂で、一人芝居は獲りづらいと聞きました。戯曲の賞で戯曲の幅を狭めるのはいかがなものでしょうか?」というような長文のメールを添えて送ったんですけど。
蓮見 ええ~!?
大石 何か体制を変えたいとかではなくただの反骨精神で。かなりイキったメールだったので、担当の方は気持ち悪かったと思います。キモいから、もう戯曲提供の依頼は来ないだろうなと思っていたら、半年後に上演した『よだれ観覧車』でも連絡がきた。
で、普通だったらここでスタイルを変えずに送るんでしょうけど、あんな長文送ったヤツが、ここへきて通常の戯曲の形に寄せてきたらもっと気持ち悪いだろうなって、面白くなって寄せてみました。
蓮見 ややこしい人だなぁ(笑)。
大石 それで地の文とセリフを区別したりとか、私以外が演じることを想定して冒頭に「上演に関する注意」「登場人物」なんかも記載してみたんです。とはいいつつ、こんな一貫性のないヤツ落とされるだろうとは思ってました。そしたら本当にノミネートされて。
蓮見 すごい話ですね。
大石 とはいえ、『よだれ観覧車』は脈絡のない3本の短編と中編(「犬」「赤」「蟬」)が並んでるっていう構成もめちゃくちゃだし、改めてこれが選ばれたことが驚きではあるんです。『ロマンス』なんて、ほんとにかっちりした構成の戯曲じゃないですか。
蓮見 僕は逆に構成が整ってない戯曲こそ受賞するんじゃないかって思ってました。選考委員たちはむしろ、起承転結とかきちっとしてないもののほうが好みなんだろうなって。受賞後、周囲の反応が明らかに変わったりしてません?
大石 どうかな。受賞の実感もいまだにないのが正直なとこではあるんですけど、発表があってから、今日みたいな取材の依頼とか上演のお誘いとか、ぽつぽつお仕事が入るようになってきました。なので、これはパスポートみたいなもんなんやろなと思ってます。岸田賞を獲ったことで行ける場所が増えるんだなっていう。
蓮見 なるほど、パスポートか。ピッタリな表現かもしれないですね。岸田賞が「演劇界の芥川賞」だと言い張るなら、いろんな機能を付けて欲しいとこですけどね。
大石 はい、うまく使っていきたいですね。
(2026・4・6 赤坂にて) 『すばる』2026年6月号掲載
構成/折田侑駿 撮影/山本佳代子
スタイリング/中島有哉(蓮見翔) ヘアメイク/久木山千尋(蓮見翔)














