手話を学ぶことをためらっていたワケ

自らの生きる道を決めても、障害と縁が切れるわけではない。『南君が恋人!?』や『岸辺露伴は動かない』といった話題作に出演するようになったなか、昨年の夏に坂上さんは池袋駅の階段でバランスを崩し、病院へ運ばれてしまう。医師をして「骨折していないのが不思議なくらいの落ち方」と言わしめたひどいめまいを起こしたのだ。

以前より倒れる頻度が増えたことを自覚した彼女はすぐに検査を行い、左耳に続いて右耳の状態も悪化していることを知る。オージオグラムによると、45dB程度の音が拾えるくらいの、中等度難聴だった。

「このまま進行して右耳も聴こえなくなってしまい、やがて音を認識できなくなるのかと考えてつらい気持ちになることはあります。怖さがないといえば、嘘になります。けれども、最近は少しずつ気持ちを切り替えられるようになりました」

参拝時の様子
参拝時の様子
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右耳の聴力低下を知ったことで、坂上さんは改めて「聴こえなくなる未来」と向き合わざるを得なくなった。そうした不安は、かつて彼女が手話の習得に踏み切れなかったこととも無関係ではない。

坂上さんの母親は、就労支援B型事業所を運営し、手話カフェ「上尾の魔女カフェ」も併設するなど、自身も手話に精通している。一方の坂上さんは障害がわかってからもしばらく、手話を学ぶことをためらっていたという。

「正直、手話に抵抗があった時期もありました。そんなことあるわけないのですが、『手話を覚えたら、完全に耳が聴こえなくなってしまうのではないか』なんて考えが浮かんでしまって……。

聴こえなくなったら、役者ではいられないと思っていました。けれども、ファンの方のなかに『自分も手話を覚えるから、話そう』と楽しみにしてくれている人がいて、勇気づけられました。聴こえないから終わりなんてことは、全然ないなって」

かつての坂上さんは、他人から心配される居心地の悪さを嫌い、元気な姿を見せようともがき、時間ばかりがすぎた。そんな彼女は今、こう語る。「どんな障害があったとしても、好きなことに向かっていけばいい」。

自分の人生に起こった吉凶を隔てなく伝え、生き方を見せ続けることで、その言葉を証明しようとしている。

取材・文/黒島暁生