思った以上に「怒った」ヴェネツィアでの撮影
──2020年に初めてドラマ版で岸辺露伴を演じられてから5年。『岸辺露伴は動かない 懺悔室』で計6回、露伴役を演じられたことになります。
高橋一生(以下、同) 同じキャラクターをこれほど長く演じる機会はなかなかないこと。自分の俳優人生において大きなことですし、幸福なことだと思います。
荒木飛呂彦先生もキャリアの中でほとんど『ジョジョの奇妙な冒険』を描き続けていらっしゃる。骨を埋めるくらいの勢いでひとつの作品を描いていることに、そこはかとない憧れがあるんです。続けていくことのおもしろさ、続けていかないとわからないおもしろさもあるんじゃないかなと思っています。
──同じ役を演じ続けることで、イメージが固定化することに抵抗感を抱く俳優もいると聞きます。
この作品の続編をやるときにも同じことをプロデューサーの方から言われたんです。僕からしたら抵抗感どころか喜びで(笑)。できることなら同じ役をずっとやっていきたいと思っています。
だからちょっと聞いてみたいんです。MCUシリーズで何年にもわたりドクター・ストレンジ役やドラマ『SHERLOCK』のシャーロック・ホームズ役を演じているベネディクト・カンバーバッチに、「同じ役を何年くらいやってましたっけ? そのときの気分ってどんな感じ?」と(笑)。
──『岸辺露伴は動かない 懺悔室』では、どのように役にアプローチされましたか?
これまでのシリーズでは、割と「ここをこう演じてみよう」と意図的にお芝居をしていたんです。でも今回はロケ地のヴェネツィアで、実際に漫画に出てきた風景を目の当たりにしたときに、自分がどんな気持ちになるか想像ができませんでした。
撮影では、謎の男・田宮役を演じる井浦(新)さんのお芝居を目の当たりにしてみて、割とフリーに任せて演じました。だから思った以上に「怒ったな」というシーンもありました。監督の(渡辺)一貴さんから「すごく露伴ぽい」と言ってもらえたりもして。
これまで露伴として構築してきたもの、蓄積してきたものが、あまり考えなくてもちゃんと出せるようになりつつあることを感じました。露伴が自分に浸透し始めていたのだと思います。
──「怒った」シーンとは?
今回は“幸福になる呪い”がテーマになっていて、露伴もやたらめったらいろんな幸福が起きて邪魔をされてしまうんです。
落ちていた宝くじに対しても、「どうせ当たっているんだろう」と足で踏みつけるのですが、台本に書かれていたのは「グリッ」ぐらいでした。でも撮影ではものすごい勢いで何度も何度もバタバタと踏みつけていて。
撮影後、ホテルに帰ってから一瞬「ちょっと逸脱しすぎたかな」と思いましたが、すぐに「まったくそんなことはない」と思い直しました。前もって考えていたことではありませんでしたが、お芝居を振り切っても露伴の人格として成立する感覚を味わえました。
ものすごく地団駄を踏んでいるので、ぜひ笑っちゃってください(笑)。