打ち上げ花火が弾丸のように水平に発射され…

大学関係の長期出張で1年間ポーランドに滞在中ということもあって、ミラノ・コルティナオリンピック(以下、ミラノ五輪)に思い立って行ってみることにした。

とはいうものの、フィギアスケートなど、日本でも人気種目のチケットは5万円を超えてとても手がでない。そこで、オリンピックの雰囲気を味わえればよいと割り切り、2月9日のアイスホッケー女子、日本vsイタリアのチケットを入手し、現地に乗り込んだ。こちらは入場料金も約36ユーロとお手頃価格だった。

ただ、今回の原稿はミラノ五輪の会場内の熱気を読者にお伝えするものではない。五輪を巡る会場外のもうひとつの盛り上がりについてご報告しようと思う。それはミラノ市内での反五輪デモとそれにまつわるいくつかのエピソードである。

近年のオリンピックでは反グローバリズムや反商業主義を標榜した抗議活動が盛んであり、2年前のパリ五輪でもそれなりの抗議活動が確認されている。ところが、ミラノ五輪でのデモはその規模、熱量ともパリとは比べ物にならないぐらいのありさまであった。

とくに2月7日のデモは参加人数や逮捕者の多さもさることながら、打ち上げ花火が弾丸のように水平に発射され、まるで暴動といってもよい状況であった。

イタリア・ミラノのレオナルド・ダ・ヴィンチ広場で行われたICE(米国移民・関税執行局)の存在に反対するデモ(写真/共同通信社)
イタリア・ミラノのレオナルド・ダ・ヴィンチ広場で行われたICE(米国移民・関税執行局)の存在に反対するデモ(写真/共同通信社)

日本領事館もデモの現場に近づかないようにと事前に注意喚起するほどで、私も自重してこの日はホテルから出ないで過ごすことにした。

このようにミラノでの抗議活動が巨大化かつ先鋭化した背景には、米トランプ政権の暴走がある。抗議運動の元来のテーマは「持続可能性のないオリンピックに反対する」というものであったが、実質的には反米運動に近いと言ってもよいだろう。

ヨーロッパにとってアメリカは基本的に同盟国であり、信頼のおけるパートナーのはずだった。ところが、デンマーク領グリーンランドをアメリカに編入したいというトランプ大統領の妄想めいた願望は、ヨーロッパとの関係を決定的に悪化させた。

とくに年末から、テレビの当地のニュース番組で大きく扱われるようになり、反米感情がヨーロッパ全体で大きくなっていたようである。

また、米ミネソタ州でICE(アメリカ合衆国移民・関税執行局: United States Immigration and Customs Enforcement)の活動に抗議する市民2名が、当局によって射殺されると言う事件があったばかりだが、こともあろうにトランプ政権は「五輪期間中の安全確保のための情報収集」を目的として、このICEの捜査官をイタリアに送り込んでしまった。 

この行動もまた、イタリアはもちろん、EU全体に大きな違和感を生じさせた。同盟国のヨーロッパ諸国をわざわざ怒らせるようなトランプ大統領の政治的意図はまったく不明であるが、兎にも角にもこうした背景事情があって、オリンピックの風物詩となっていた抗議活動は異様ともいえるほどのレベルに盛り上がっていった。