「侘び寂びの美」を山から学ぶ

小島 今、松葉屋は社員でいうと20人ぐらい。その他の出向している人間を合わせると30人ぐらいのスタッフがいます。盆栽士はいま会社にいるのは3人、そのほか3人が6年間の修行に行っています。僕が「この先生だ」と思っている先生がいらっしゃるので、その技術を学ばせに。

盆栽の世界は世襲制で、一家相伝なんです。僕も5年間の修行をしましたが、先生の取り計らいで通いの修行を許可されて、スタンダードな部屋住みの修行ではありませんでした。今、その先生にはうちの社員になってもらっています。僕は初代でやっているし、世襲制の中にはいないので、アパレルやストリートカルチャーで培った強みを生かして活動することができる。ナイキさんやディオールさん、麻布台ヒルズさんといった業界外のクライアントさんのお力も借りて、「新しい盆栽の見せかた」を提案しています。

一家相伝の盆栽業界には家同士の勢力地図みたいなものもあって、漫画に例えますと、「北斗神拳と南斗聖拳はつきあっちゃいかん」みたいなしきたりがあるんです。 でもそういう一門の垣根も僕は飛び越えて活動しています。たとえば黒松を扱わせたらこの一門、赤松はこの一門、真柏はこの一門という具合にジャンルごとの名門があるのですが、うちの職人は複数の家を跨ぐ形で、それぞれ部屋住みの修行に行っています。

塚原 それはなぜ家によって扱いの領域に差ができるというか、特徴ができるんでしょう?

小島 やっぱり先代、先々々代が持っていた技術って、その家の中でしか伝わってないんですよ。門外不出なんです。お弟子さんは知っているだろうけど、全部開示していない先生もいっぱいいるので。

塚原 それって複雑な技術なんですか?

小島 まあ複雑ですね。要はその道のプロですよね。黒松のプロ、黒松を研究しきった先生。今から僕がその技術を一生懸命勉強しようとしても、先生からちゃんと教えてもらわなかったとしたら、身につくのに何百年かかるという話です。そしてその先生も先代から教わらなければ身につけることはできなかった、一家相伝の技術です。

黒松 (推定樹齢300年)
黒松 (推定樹齢300年)

塚原 それって技術なんですか。それとも木と向き合う姿勢みたいなものですか?

小島 両方だと思います。木とちゃんと向き合ったからこそ得ることができたし、技術があったからこそ向き合えたんだと思うんですよね。どんなに一生懸命向き合っても、技術がないとわからない。

たとえば師匠がいつも「自然を見てこい」と言っていたんですけど、僕、もともとキャンプをやっていて――最近流行しているカジュアルなキャンプじゃないですよ、本当に獣道を行くキャンプをしていたので、山のことは少しは知っているつもりでした。

でも師匠のその言葉を聞いてから山に行くと、自然が作り上げた山並み、木の形、ここに太陽の光が入ってきたからこんなふうなつくりになったんだよなとか、木々や山の見え方が変わっていったんです。そのようにしてオールドスクールな盆栽の本質である「侘び寂び」は、自然の中にあることを知った。その侘び寂びをいかに鉢に植えて、自然に似たものを作っていくか。

子どもの頃から盆栽が好きで、ずっと自己流で作っていたけれど、盆栽って実はそこが大事だということを知らずにつくっていたから、盆栽のこともわかっていなかった。それからは自然というものをより知ろうと思ったし、木に向き合う姿勢も変わりました。それに伴う技術の質や作風も変わっていきました。