聞くほどに別世界共感を超える脱北者の体験

脱北してきた方々の、脱北するに至る背景や韓国に来るまでのストーリーは、人それぞれ異なっていて、どれも劇的なものばかりなのですが、私が一番記憶に残っているのは、アンニさんとアンニさんのオモニの話です。

ある日、彼女たちが暮らすところに、イベントか何かの目的で金正日が通ることになり、そのために突如、有無も言わさず家が取り壊されることになりました。

当時、家にはアンニさんと弟しかいませんでしたが、着の身着のまま家を離れなくてはならず、金日成と金正日の写真だけを持って家を出たといいます。民主主義の国で暮らす私にとっては、家の取り壊しを国が独断で決めてしまうことに衝撃を覚えました。

韓国にとって北朝鮮は隣国で、元々は同じ民族とはいえ、あまりにもいろいろなことが違いすぎていて、脱北者から聞く話はどれも驚くことばかりでした。

金正日が通るだけで家を破壊され…… ※写真はイメージです
金正日が通るだけで家を破壊され…… ※写真はイメージです
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どんなドラマよりもドラマがあるといっても過言ではないほど、すべてが劇的すぎて、私には共感することすらできません。少なからず自分の経験があることならば、人は相手の話に共感することができますが、脱北者の方々の話や経験は、あまりにも次元が異なっていてまるで別世界のことのよう。「それって本当の話なのかな?」と思わず疑ってしまいたくなるほど、衝撃的な話ばかりなのです。

アンニさん家族は中国との国境に近い地域に住んでいたそうですが、平壌出身の脱北者であるソアさんの話と聞き比べると、平壌とそれ以外の地域では、生活環境がかなり異なっているように感じました。

平壌で暮らす人々も食べ物が十分ではないそうですが、それでも生きるか死ぬかほどではないといいます。また、平壌は選ばれし者しか住めないところで、そこで暮らすのは特別な役職や立場の方たちなのだそうです。

また、電気が充分に使えない生活は全国民に共通していますが、平壌はほかの地域に比べると、電気が使える時間が比較的長いそうで、多くの部分で田舎よりも優遇されているそうです。

一方、そのほかの地域で暮らす人々は、まさに生きるか死ぬかの飢えた状態で、中には電気がほとんど使えないという地域もあるそうです。そうした地域で暮らす人たちは、死ぬまで平壌に行くことはできず、移動することすら難しいのだそう。地方から脱北した方々に話を聞くと、「北朝鮮に住んでいた頃はいつか平壌に行くのが夢だった」と語る方がたくさんいました。