思考過多に陥った自分を救ってくれた1冊

──亀井社長はシステムエンジニアを経て2005年に三省堂書店に入社されました。書店を家業に持つ社長は、どのように本と接してきたのでしょう?

親はむやみやたらと「本を読め」という感じではなかったですね。初めて自分で買ったのは『ドラえもん』だったと思います。子供の頃は「週刊少年ジャンプ」が好きで、『キャプテン翼』や『キン肉マン』、『北斗の拳』などを楽しんでいました。

他にも童話やライトノベルを読んだり、子供ながらに読書はしてきましたが、基本的に課題図書を読んで書く読書感想文は苦手でしたね。だから読書は趣味として定着しませんでした。

大人になってからも、SEだったので読む本といえば技術書くらい。30歳でこの業界に入ってから、遅ればせながら色々なジャンルの本を開拓し、本を読む習慣がつきました。

今ではビジネス書や新書など、教養に役立つ本を読むようにしています。人との接し方などは本から学びましたし、人間的に若干の深みは出たかなと感じています。

「王道を貫く」三省堂社長が明かす総合書店としての覚悟と、新店舗での苦渋の決断…そして“一番つらい時に救われた一冊”_5

──では、新店舗のコンセプト「歩けば、世界がひろがる書店。」にかけて、亀井社長の“世界が広がった本”を教えてください。

1冊目は『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』(ダイヤモンド社)です。2013年に出版されたときに一度読んだのですが、その頃は「なるほど」と思うくらいでした。

再度手に取ったのは、本店の閉店を決めた2020年。当初は本店のスタッフを他の店舗に配属するなどして雇用を継続する計画を立てていました。ところがコロナ禍でその計画が実現できなくなり、早期退職を募らなければならなくなったんです。振り返ると、一番メンタルをやられたときでしたね。

従業員のことが頭に浮かんでは考え、心配して……みたいなことをやっていたら、どんどん気持ちが下がってしまって。思考過多に陥った自分を救ってくれたのが『嫌われる勇気』でした。他人の課題に振り回されず、自分主体で考えていいんだという教えによって、非常に助けられました。味わい方が変わったという意味でも、改めて本のおもしろさを実感しました。

──本はいつ読むかによっても受け取り方が大きく変わりますよね。ではもう1冊は?

北方謙三先生が大好きなので、『水滸伝』(集英社)シリーズです。『楊令伝』、『岳飛伝』を含めて、3〜4回は読み返していると思います。エンターテインメントとして非常におもしろいのですが、組織運営の記録としても勉強になっています。

『水滸伝』北方謙三著
『水滸伝』北方謙三著

物語の中には梁山泊を運営するリーダーがいて、中間管理職や現場で働く人たちがいる。まさに会社だと思います。それぞれの立場の想いをいろいろな視点で描いてくれているので、組織を運営する立場として刺激を受けます。

何よりも北方先生が描くキャラクターはどんな立場の人もすごくかっこいい。「人としてこうあるべきだよな」と思わせてくれる、渋いダンディズムに魅了されます。

取材・文/松山梢
撮影/石田壮一