スティーブ・ジョブズが語った「点と点を結ぶ」
続いて、日本のバイオテクノロジー企業のユーグレナ。同社は、「6:3:1の投資ルール」を定めています。直近の事業に役立つ研究に6割、中期的に役立ちそうな研究には3割、そして、現時点では何に関係するかまったくわからない研究に1割の予算を割くそうです。
このルールは、個人の生活にも当てはめられそうです。僕はこの話を聞いて、読書で「6:3:1の投資ルール」を実践しました。
読書では、直近で役立ちそうな内容や自分の興味のある内容の本ばかり読んでしまいがちですが、ネットで欲しい本を購入するだけではなく、リアル書店を練り歩いて、まったく関係ない本を読むように心がけています。
リアル書店は店舗によって選書も異なりますし、いつもは訪れないジャンルの本棚の前をただ歩くだけでも意外に面白そうな本が見つかるものです。そういう意味では、リアル書店もランダムな発見がしやすいスぺパの高い空間と言えます。
ご紹介した事例は、やはりコスパやタイパの観点で言えば良いとは言えません。しかし、何かとの偶発的な出会いが長期的には大きな影響をもたらす可能性があると考えると、私たちは予定調和になりがちな毎日に少しでも偶然のエッセンス―戦略的〝ムダ〞を加えてあげることが重要に思えます。
「里親の預貯金を大学入学で使い果たしたものの、その後大学で単位を取ることに意義を見出せず、退学。その後はキャンパス内を練り歩いては、興味のある授業だけこっそりと聴講していた。
このときに受けたカリグラフィー(文字を美しく見せる手法)の講座で、彼は手書きの美しい文字に感銘を受けた。後に彼は、シンプルで鮮やかなフォントを掲載するコンピュータを生み出した。」
これはAppleの生みの親、本書でも何回か登場したスティーブ・ジョブズのエピソードです。彼は2005年のスタンフォード大学卒業式のスピーチに、この体験を「当時は、これがいずれ何かの役に立つとは考えもしなかった」と明かし、最初のマッキントッシュの設計時にカリグラフィーの講座で聞き齧かじった知識がよみがえってきたと語っています。
そして、彼のスピーチは「点と点を結ぶ」話へと繫がっていきます。
〈中略〉将来をあらかじめ見据えて、点と点をつなぎあわせることなどできません。できるのは、後からつなぎ合わせることだけです。だから、我々はいまやっていることがいずれ人生のどこかでつながって実を結ぶだろうと信じるしかない。運命、カルマ…、何にせよ我々は何かを信じないとやっていけないのです。私はこのやり方で後悔したことはありません。むしろ、今になって大きな差をもたらしてくれたと思います。
僕は学生のとき、必死で就活する周りを尻目に音楽活動をしたり、日本語教育の講座を受けたりと、完全にレールを外れていました。それで良いんだと強がっていたものの、内心は不安でした。そんなとき、お守りのように毎日聞いていたのがこのジョブズのスピーチです。
改めて彼のスピーチを聞き直すと、自分が興味・関心を持てる事柄を素直に追求することの怖さについても、認めているのですね。だからこそ「信じるしかないのだ」と。













