日本だけが本当に税率が異常に高いのか?
しかし一方で、ボーナスをもらえない人も多い。SNS上では「もらえるだけありがたい」「贅沢を言うな」といった批判の声も少なくない。一方で、「稼いでいる人ほど税負担が重く、支援は受けにくいのが矛盾している」「働く人が損をして、稼ぎのない人が得をする構造に疲れた」といった不満も上がり、完全に対立構造が生まれてしまっている。
では、こうした状況は“日本だけ”に起きているのだろうか。この点について、目白大学経営学部准教授の髙辻成彦氏は次のように指摘する。
「租税負担率と社会保障負担率を合わせた国民負担率を国際比較すると、日本は突出して高いわけではありません。OECD加盟国のうちデータがそろう36カ国では日本は24番目で、およそ50%を切っています。フランス、ドイツ、イタリアの方がもっと高いです。しかし、ボーナス支給額が増加していても、手元に残るお金の目減り感があり、実感がないのが実情ではないでしょうか」
つまり、日本の負担構造は欧州主要国より軽い部類に入る。それでも“不公平感”が強く生まれてしまうのは、手取りが増えた実感が極端に得られない社会環境にある。
髙辻氏は、その背景に“物価上昇”を挙げる。
「2020年のコロナ禍以降、物価上昇圧力が強まりました。コンテナ不足などによる海上運賃上昇が物やサービスへ波及したのです。ウクライナ戦争勃発後は保護貿易主義が台頭し、半導体など戦略物資の囲い込みも進みました。円安も物価上昇を招いています。こうした上昇圧力は収まらず、対策が求められていますが、原因の多くが海外発であるため、日本政府の対策で収束するかは不透明であるところが、問題の根深いところです」
上がり続ける税や社会保険料によって、確かに手取りは減った。だがそれに加えて、生活コストが上がり続けているからこそ、より一層、減少を強く感じてしまうのだろう。
つまり今回の“冬ボーナス炎上”は、税金や社会保険料だけの問題ではない。物価高や実質賃金の低下、そしてSNSでの再分配論の過熱──いくつもの不満が重なった結果、2025年の空気として一気に噴き出したものだ。
高所得者に負担が偏っているのは事実である。努力しても報われないと感じれば、誰だって不満を言いたくなるのは当然だろう。だからこそ、感情だけが先走るのではなく、「なぜ手取りが増えないのか」「どこに構造的な課題があるのか」を落ち着いて見つめることが必要なのだろう。
取材・文/集英社オンライン編集部













