お前は何なら活躍できるの?
塚原 伝統的な職人の世界は「師弟関係」で成り立っていて、住み込みで同じ釜の飯を食いながら、言語化できない美意識とかもその一門で共有していたと聞きます。KOMAの職人さんたちは「通い」で工房に来ていますが、みんなで一緒にご飯を食べたりしていますよね。そういった、親密なコミュニケーションによる美意識の共有については、どう思われますか?
松岡 いや、それは単純に才能だと思う。一緒に過ごした時間とかは関係なくて、技術や美的センスとかは、その人が持って生まれた才能だと思う。
塚原 やっぱりセンスには人によってある程度限界があるんですか?
松岡 センスも伸ばせると思う。だけど限界もあると思う。技術の世界って大きく言うと二種類あって、「時間が解決してくれる技術」を徹底的に伸ばしていくのがひとつ。もうひとつ、「センスありきの技術」は時間が解決してくれない。
たとえば道具でも、よくある「平鉋」(ひらかんな)という鉋は「道具を仕込んでいく鉋」で、何度も繰り返し使うことで道具ができていく。だから、時間が結構解決してくれる。ちゃんとセオリーどおりに時間を使って仕込んでいけば、必ずある一定のところまではみんな到達できる。
だけど、たとえば「小鉋」。同じ鉋でも小さな鉋になると、これは完全に使う人のセンス。研げば使えるから、道具を仕込むのは簡単なんだけど、刃の入れ方とか、木目の読み方とか、そのセンスがあるかないかで、できない人はずっとできない。この技術に関しては時間が解決してくれない。
塚原 以前、僕がやらせていただいたとき、「大ちゃん、センスねえな」って(笑)。僕は駄目でした。
松岡 だけど不器用な人は不器用なりに、自分でそれを認識してオープンマインドでいられれば、逆に伸びたりするんですよね。俺もそういうタイプだったと思います。ちょっと器用なぐらいで自信があって、オープンじゃないタイプが一番ダメ。
KOMAでは通年で社員を採用していますが、1年間で履歴書が100通ぐらい来ます。そのなかから採用するのは、2、3人です。海外から郵便で作品を送ってくる人もいます。たとえばこれとか、アメリカから自作のハンガーを送ってきて、日本語で書いた手紙も入っていた。
塚原 本当だ。こんな丁寧なプレゼンをされたら、採っちゃいそうですね。
松岡 だから、「一回日本に来てみれば」と返事をして、お互いに様子を見ながら、インターンみたいな感じで働いてみればと提案しました。
選ぶときに、木工技術があるかないかなんか見てもしようがない。最初はみんなないから。アメリカの彼も勉強はしているかもしれないけど、現場で通用するような技術ではない。俺が問うのは「お前は何なら活躍できるの?」ということ。「その人が入ったことで、新しいKOMAが生まれる」というのが大事だと思っているんです。
今年採ったのは元カメラマンで、自分で写真館を4店舗経営していた人。「経営するのは疲れたから、雇われたい」と言って入ってきた。だから写真の機材も全部持っているし、写真の技術もある。彼が入ったことで、カタログやウェブに掲載する作品の写真撮りが、格段に良くなりました。
もう一人は東京藝術大学の彫刻科を出た子。素材に対する知識とかめちゃめちゃ詳しくて、造形力なんかすごいし、デッサンもすごいから、俺の先生になってもらって、デッサンを教えてもらっています。だから何かそういう一芸を持っている人を選ぶ。そうすると新しいKOMAができる。















