全盛期の江川のアウトハイを流してホームランにした男

大谷翔平、佐々木朗希よりも速かった? 江川卓20勝時代の「物理を超えたストレート」その衝撃を掛布雅之が語る_2
すべての画像を見る

当たらないといえば、ダルビッシュのスライダー、野茂英雄のフォーク、西本聖のシュートなど魔球のような変化球を投げる投手は幾人もいた。江川卓のストレートも、真っ直ぐでありながら魔球というレベルということか。

だから半世紀が経っても、佐々木朗希のような160キロ以上な投げる投手が出てくるたびに、江川卓がフィーチャーされるのだ。

当時の阪神のベンチワークとして、どういった指示を出していたのかを訊いてみると、

「高めは振るなの一点ですね。真っ直ぐとカーブしかないですから。ストレートをいかに見極められるか、高めを振ったらもう勝負できないですもんね。

当時の安藤(統男)監督からミーティングで『高めのストレートを打つな』と耳にタコができるほど聞かされるんですけど、ミーティング終了後に『お前はその高めのストレートを打ちたいんだよな。お前は振りにいっていい』と言われるんですよ。

四番が打たなくても他の選手が打てばチームは勝てます。ただ監督がチーム全体で『高めのストレートを打つな』と言ってるのに『お前だけは打っていいよ』とわがままな勝負をさせてもらったときこそ、チームの勝敗をすごく背負った打席になるんですよね。

監督は、江川というピッチャーのストレートに対して勝負をかけるアプローチの仕方を全面的に任せてくれる。なおさらずしりと重たく感じて打席に入るんです。だから特別なんですよ」

江川との勝負が特別でもあり別格というのは、何もただただ男と男の勝負を賭けているだけでなく、チームの勝敗の鍵、監督の思いなどもすべて背負っていることから生まれている。それだけ江川卓という存在が、特別であり偉大だということだ。

掛布は江川から14本ホームランを打っているが、月並みな質問として最も印象のあるホームランはどれか尋ねてみた。

「最初のホームランも忘れられないですけど、アウトハイのストレートを後楽園でレフトスタンドに放り込んだホームランかな。多分彼はあの高さのアウトハイってのは、誰も打たれたことないと思います。

僕もよく打てたなと思うんですけど、ちょっと風がね、甲子園と同じ浜風みたいのが吹いてたんですよ、後楽園に。これも反応したんでしょうね。甲子園球場のような風が吹いていて、高めのアウトコースのストレートをレフトスタンドに持っていったことで彼もびっくりしたと思います。

僕もびっくりしたんですけど。本当にうまく上からボールを叩くことができたんでしょうね。ヘッドが負けずに」