父や先輩と常に比べられる歌舞伎俳優の宿命
──今回の作品では複雑な親子関係が描かれています。
至と父親の史朗は、お互いに確かに愛情を持っています。でも、愛情があるからといって必ずしも関係がうまくいくとは限らない。強い思いがあっても、かみ合わずにすれ違ってしまうことがあるのだと、この作品を通して改めて感じました。
──芸術家の血を受け継いでいるという設定が、より一層親子の関係を複雑にしています。
至と父親のように愛情を持ちながらも、どうしても交わらない部分があるという複雑さは親子だからこその難しさだと思います。
自分自身も、歌舞伎の世界で父や先輩方と日々向き合っています。尊敬しているからこそ越えられない存在でもあるし、一方で「自分なりの結果を残したい」という思いもある。世間からは常に比べられる立場ですが、その宿命の中で自分の答えを探していくしかない。
だから、作品に登場する父子の関係には強く共感しました。ただ、僕自身は教わる立場でありながらも、役者として「こうしたい」「これが正しい」と思う主体性を持つことの重要性を認識しています。全部受け身だけでもダメだと思うので。
──“美”に対する感覚や執着というのも本作のテーマのひとつです。染五郎さんご自身が最も“美しい”と感じるものとは?
やはり満員の客席です。舞台に立つとき、客席がびっしり埋まっている光景ほど圧倒されるものはありません。特にコロナ禍で公演が中止になり、再開しても一席置きでしか座れなかった時期を経て、久しぶりに満員の景色を見たときの感動は忘れられません。「これは当たり前ではないんだ」と強く実感しました。あの瞬間の美しさは、舞台に立つ者にしか味わえない特別なものだと思います。












