答えを急がず、段階的に準備する

親御さんに介護経験がある、もしくは身内や知人から介護の大変さを聞いているようであれば、お子さんから「どういう介護の大変さがあるの?」と積極的に聞いてみましょう。親御さんが介護の大変さを知っているからこそ、「自分たちはそういう苦労をしたくないよね。お互いに困らないためにできる準備って何かな?」と、具体的な備えについて一緒に考えていくきっかけになります。

答えを急がず、時間をかけて段階的に準備をすることも大切です。親と子が遠距離に居住している場合は、盆暮れ正月などお子さんが帰省するタイミングをとらえて、「今回はかかりつけ医について」「次は住まいの今後について」「次の次は介護の備えについて」などと、比較的話題にしやすいテーマから段階的に親子で共通認識を増やし、最終的には、話題にしづらいけれど極めて重要な、「家財整理」「資産」「相続」などについて親御さんの意思を確認し、お子さんはそれに応じた準備を進めていきましょう。

親子が同居ないしは近居の場合も、敬老の日や家族の誕生日、近しい親族の命日や回忌法要など、親子が寄り添えるタイミングを見つけ、やはり何回かに分けて段階的にどんな備えをすればいいのかを共有しましょう。

これは私の例ですが、私の父が眠っている吉田家先祖代々の墓は、石川県金沢市にあります。私は姉とふたり姉弟で、姉は嫁いで他家の人となりましたので、母が亡くなった場合、私が母に代わって墓守りを担うことになります。

写真はイメージです(画像/Shutterstock)
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ただ、私のふたりの子どもは娘で、私に何かあったときに墓守りを任せられるかどうかを早いうちに確認しておく必要があると考えました。母が吉田家のお墓をできる限り守ってほしいと希望しているからです。また、母は自分の戒名を生前に決めておくことも望んでいました。そこで、母と私と妻の3人でお墓のある金沢の寺の住職を訪ね、まず戒名を決めていただきました。

それからしばらくのち、今度は私と妻と娘たち4人で金沢に観光旅行をしました。お墓のある街自体に魅力を感じることができなければ、墓守りのためにわざわざ東京から足を運ぶ気持ちにならないと考えたからです。もちろんお墓参りもしました。

さらにその後日、娘たちに墓守りを引き受ける意思があるかどうか、もしも引き受ける意思があるなら、墓守りにかかる費用を残しておくことを伝えました。結果として、下の娘が引き受けてくれることになりました。そこで今度は、母、私、妻、次女の4人で金沢の寺に赴き、ゆくゆくは次女が墓守りを担うことを住職に伝えました。

また、次女が次の世代に墓守りを引き継ぐことが難しいと判断した場合は、現在のお墓から寺の共同墓地へ改葬してよいことを全員で確認し合いました。これは一般論としても、親子で早めに確認しておくべきポイントです。

私たち家族が墓守りについて検討し始めてから方針が固まるまでに3年くらいかけたと思います。こうした手順を踏んでおかなければ、吉田家の墓はいずれ無縁墓になっていたでしょう。それは母の希望に反しますし、お寺にとっても迷惑です。

このように、時間をかけて段階的に準備をする必要があるからこそ、いかに早めに行動を起こせるかが重要なポイントになるわけです。

文/吉田肇

『介護・老後で困る前に読む本 親子で備える知恵と早期の選択で未来を変える!』(NHK出版)
吉田肇
『介護・老後で困る前に読む本 親子で備える知恵と早期の選択で未来を変える!』(NHK出版)
2025/7/10
1,760円(税込)
200ページ
ISBN: 978-4140819968
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