クロちゃんが問いかける「人間とは何か?」

なんとか自身のことを伝えようと懸命に考え、試行錯誤しているクロちゃんの姿は感動的だったし、ついにコミュニケーションが成立し、笑い合うシーンは幸福感に包まれていた。それは、伊集院が言うように「ここでしか見れない、すごいもの」だった。

自分の“言葉”が相手に伝わったときの心底嬉しそうなクロちゃんの満面の笑顔を濱田にも見せてあげたかった。だからといって、下品でゲスでクズなクロちゃんがテレビ用に偽ったキャラというわけでもないだろう。

濱田や豆柴の大群に真摯に向き合うのもクロちゃんならば、下心丸出しで女性にセクハラをするのも、悪態や嘘をつきまくるのも、鼻くそを食べたりするのもクロちゃんなのだ。

番組を演出する藤井健太郎は以前、過去にこんなツイートをしていた。

「クロちゃんは人間の業を煮詰めたような存在で、誰もが持ってる『欲』や『みっともなかったりカッコ悪かったりする部分』が過剰に表に出ちゃっている人。だから、その一番の異常性は『他人からどう見られるか』を完全に無視できる所だと思う」(2018年11月14日)

そして、安田大サーカスの団長安田もクロちゃんをこう評している。

「クロちゃんが言ってることってね、人間の奥底で、こんなん言ったらアカンっていうような本性なんですよね。みんなが思ってるけど言わへん、こんなことやったらアカンなっていうのを、全部、フィルターゼロ人間みたいな感じなので。それがクズっていえば、クズですけど」(『八方・陣内・方正の黄金列伝』2020年11月29日)

そう、良いことも悪いこともすべて剥き出し。いわば、“誇張した「人間」”のような存在なのだ。深淵を覗くと、そこにクロちゃんがいる。『水曜日のダウンタウン』でクロちゃんは、「人間とは何か?」と問いかけてくるのだ。

ちなみにこの日、いちばん人間の業を煮詰めたように“悪かった”のは、豆柴の大群の解散の危機を、必死の訴えで回避し本気で涙を流すクロちゃんを見て、「後ろから殴りたいわ」と漏らした浜田雅功に違いない。

番組にも登場した濱田祐太郎のエッセイ(画像/濱田祐太郎公式Xより)
番組にも登場した濱田祐太郎のエッセイ(画像/濱田祐太郎公式Xより)
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文/戸部田誠(てれびのスキマ)