「真っ赤な眼をして、わっと襲われたときの恐怖は二度と忘れられない」  

秋田県でのクマによる人的被害は、2023年ごろから増えており、秋田市内では5人が次々とクマに襲われる被害も出た。

2023年10月9日、午前9時頃ーー。秋田市南部の川沿いの住宅街にクマが現れた。計5人がケガを負い、事故現場付近には、運転免許センターや小学校、保育園が近くにある。

この日は「スポーツの日」で、祝日の閑静な朝の時間帯だった。近隣住民の女性は「救急車が複数台、消防車やパトカーまでが駆けつける大騒ぎの日になるとは思わなかった」と明かす。

「1メートルくらいのクマが出て、騒ぎになりました。私もクマを見ました。うちの飼っている犬もいつもとは違う様子で、落ち着かない状況だった。とにかく家から出ないことを意識して待っていると、パトカーや救急車の音が聞こえてきて、ようやく安心できました」

取材に応じる男性(撮影/集英社オンライン)
取材に応じる男性(撮影/集英社オンライン)

襲われた一人で80代の男性は、耳の裏の左後頭部を12針縫い、左腕から左脇腹にかけて大きいアザができる打撲傷を負った。

男性はこの日、自宅敷地内でテレビアンテナを修理していたという。修理作業に疲れた男性は、椅子に座って休んでいたときに背後から突然、クマに襲われた。

「クマが後ろから俺を突き飛ばしたんだよ。2メートルくらい飛ばされてしまった。何が起きたかわからなかった。

消防や警察の人らに話を聞くと、四足歩行でクマが俺の敷地内に走ってきて、俺が邪魔だったのかクマが手で俺の頭を狙って押しのけたらしくて。でもそれだけで、こんなケガをするとは思わなかったんだわ」

写真はイメージです(PhotoAC)
写真はイメージです(PhotoAC)

当時、近郊の住宅街では散歩中だった80代男性がヤブのなかでクマに遭遇し、ケガを負った。その後、回覧板を届ける途中だった70代女性を襲い、クマが人から逃げる形で前出の80代男性に危害を加えたという。

80代男性を襲った後、クマは東の方へ走り去った。男性は上半身が血だらけになり、打撲による痛みから立ち上がることもできなかったという。

「痛くてたまったもんじゃなかった。引っかかれた傷より、打撲のほうがはるかに痛くて、意識がもうろうとしていた。40年以上ここに住んでいるけど、クマがここに出ることなんて一度もなかった。だから襲われた当時は、クマによるものだったなんて理解できなかった」

被害にあった5人は、市内の病院へ緊急搬送されたという。

近隣住民によると、顔を引っかかれたり、太ももをかじられたりするなど大ケガを負った人が数人おり、体の他の部位から皮膚を移植しなければならないほど重体だった人もいるという。

80代男性は運ばれた当日に家に帰宅できたものの、ほかの4人は約1カ月入院をしていたという。

被害にあったという他の男性は「真っ赤な眼をして、わっと襲われたときの恐怖は二度と忘れられない」と近隣に話しているという。