漫画も脚本もすべて独学で始めた
――もともと此元さんは学校に行ったり、漫画家のアシスタントを経て漫画を描き始めたわけではないんですよね。
此元 そうですね、独学です。脚本も教わってはないので、良い意味でも悪い意味でも、いわゆるセオリーに強くない作り手だと思います。セオリーは尊重するけど、入口にはしません。
それしかできなかっただけかもしれませんが、それで良かった気もします。最初から全部覚えていたら、今の書き方にはならなかったし、足りないところはその都度補う。その前提でやっています。
――漫画と脚本、両方やってみて他に何かわかったことはありますか?
此元 「脚本家」という名称が足りてない気がします。どれも同じくらい難しくて尊敬している前提で、僕からは三層のグラデーションに見える。ゼロから設計するオリジナル起点と、与件をもとに設計する企画協働型、そして原作を別の器に移し替える翻案起点。
このあたりの名称が分かれると、制作サイドにもリスペクトが生まれて観る人にもそれぞれの仕事の輪郭がもう少し伝わりやすいんじゃないかなと思いました。
――そもそも漫画を描き始めたきっかけは?
此元 ちょっと集中力がなくなってきました。
――大丈夫ですか……。
此元 なんか……眠い……。
――え、9時間も寝たのに?
此元 ……。
――アニメ、ドラマ、漫画、それぞれお話を作る上で作り方に違いはありますか?
此元 媒体ごとに文法が違うので使う筋肉が違う、というのが実感です。映像はまず「音」を意識します。セリフは字面で読むのと、声で聞くのとで体感がまったく違う。関わる人が多いぶん設計どおりにいかない齟齬も出ますが、その偶発性がもどかしくもおもしろいところです。
一方で漫画は、基本ぜんぶ自分で支配できて読者に直送できる。ページ配分も“間”も、自分の手の内で調整できる。どちらも人物の体温や物語の熱は同じで、バズじゃなく再読を取りにいく。1回目で気持ち、2回目で構造が見える設計です。
――此元さんの作品の特徴の1つに「夜」に起きる物語というのがあるかと思います。やはり夜の物語は描きやすかったり……。
此元 そうですね……。夜ってあのー、本当の姿じゃないですか。太陽があるのがおかしいのであって……。
――……。
此元 なんですか?
――ちょっと入ってこなくて。
此元 「夜」の描き方が特徴って「そうでもないけどな」って思いながら答えてたからかもしれません。
――でも、夜は好きですよね?
此元 夜は雰囲気に逃げやすい罠でもあるので、理由なく夜にしません。昼でないと出ない残酷さや可笑しさもある。結論としては、好きだけど依存はしないという感じです。