高田馬場の物件「最近は社会人ばかり」
家賃の高騰が止まらない。LIFULL HOME'Sによると、8月時点で東京23区のシングル用の賃貸物件の賃料は11万8024円と、1年前から15%上昇した。つい3年前まで約9万円だったことを考えると、その高騰ぶりは一目瞭然だ。
若手社会人にとっては、給料が増えたところで、その分が丸々家賃として消えていくのだから、たまったものではないだろう。
家賃の上昇を受け、かつての「学生街」も姿を変えつつある。都内で複数のアパートを保有する不動産投資家の男性は「高田馬場の物件は代々早稲田の学生が住んでいたが、最近では社会人しか申し込まなくなった」と話す。
インフレが進む中、学費とは別に月に10万円を超える家賃を負担できる親は決して多くはない。
「そもそも、地方から東京の大学を目指す高校生が減っている」と話すのは、都内の予備校講師だ。
実際、早稲田大学の25年の合格者のうち、首都圏出身者が占める比率は75%を超える。慶應も同様で、地方出身者は4人に1人程度にとどまる。内部進学できる附属校がない東京大学ですら、2024年度の一般選抜合格者のうち、関東の高校出身者は59%と過半を超える。
かつて有名大学のキャンパスでは様々な方言が飛び交っていたものだが、いまや関西弁をわずかに耳にするくらいだ。東大や早稲田、慶應といった東京の有名大学の「関東ローカル大学化」は加速している。
失われつつあるのは地域間の多様性だけではない。親の所得格差という観点でも、学生の均一化が進んでいる。
慶應・日吉台ハイツを潰して伊藤忠の社員寮に
学力ではなく経験を問う推薦入試の増加なども手伝い、「現在、地方から上京する学生のマジョリティーは学費と家賃、仕送りを含めて年間200〜300万円を難なく負担できる、裕福な実家を持つ家庭が中心だ」(前述の予備校講師)。
家賃も学費も上昇する中、致し方ないことではあるが、かつて高田馬場に大量に生息していたような、貧しい出自ながら浪人の末に早稲田に進学し、家賃数万円の木造アパートや学生寮に住んで臥薪嘗胆を狙う若者は絶滅危惧種となっている。
こうした状況下、地方出身の貧しい出自の若者の受け皿となっていた「学生寮」のあり方も大きく変わっている。
昭和から平成にかけ、親が裕福でない学生の受け皿として県人寮や学生会館といった宿舎が大学のそばに存在していたが、施設の老朽化や人気の低下などを理由に廃止が相次ぐ。
慶應大ではかつて日吉キャンパスの近くに「日吉台学生ハイツ」という日本最大ともいわれた巨大学生寮があったが、閉館の末、跡地に伊藤忠商事の社員寮が建設されるという、資本主義を象徴するような出来事があった。