トランプ政権に対する忖度の極み
さらに、他国のモデルになったという意味では、日本からの米国への80兆円の投資の確約は重要である。この巨額の投資スキームは、ラトニック商務長官らの発言によると、日本側からの提案であったとされている。
同投資スキームはトランプ大統領の腹心であるミランFRB理事(前CEA委員長)が提示したマルアラーゴ合意の内容の変型版である。
マールアラーゴ合意とは、米国が同盟国に安全保障を提供する代わりに、利子ゼロの米国債を購入させるという構想である。この合意が公表された際、その実現性については若干疑問視されていたものだ。
石破政権がトランプ政権と結んだ米国への直接投資(そして、米国側が投資案件を選べる)という合意は、米国債という形式ではないものの、実質的にこのマールアラーゴ合意が実現されたことを意味する。
日本側から本当にこの提案が行われたとするなら、トランプ政権に対する忖度の極みであり、彼らが諸手をあげて喜んだことは確実である。
そして、防衛費増額も含めて日本側から米国側への安全保障面の協力については緩やかに進みつつある。日本の保守派から見ると生温いように見えるだろうが、両国の行政レベルで進められることについては粛々と進んでいる。
もちろん劇的な変化が表面的にも起きているわけではないが、それは日本の政治の常であるために特段落第しているわけでもない。
米国側から側聞すると、駐米日本大使館職員の中に優秀な人材が配置されており、米保守派の考え方を理解できる方がいるという話もあった。米国に配置されていた日本人スタッフも優秀であったようだ。(具体的なお名前は聞いたけれども本稿では控えておく)
トランプ政権に全面的に忖度したことで、石破政権はおよそ1年ほどの短い政権としては、当初の低い期待を裏切り、米国側の評価は高かったと言えるだろう。トランプ大統領は石破総理に関して常に一定の評価をするコメントを繰り返していたこともその証左だ。
石破総理の対米交渉が日本の国益に資するものであったかは将来において実証されていくことになるだろう。そして、トランプ大統領が安倍元総理との思い出のように、石破総理との思い出を語るかどうかは誰も知る由もない。
文/渡瀬裕哉













