米国側にとってまさに「してやったり」
日本製鉄はトランプ政権から干されていたポンペオ元国務長官を顧問に採用する迷走ぶりであったため、この問題の顛末はどうなるものかと思っていたが、結果として日本製鉄のUSスチールへの巨額投資及び黄金株付与という形で落ち着いた。
9月にトランプ政権側は黄金株の権限を早速行使し始めており、イリノイ州の製鉄所の鉄鋼製品の生産中止計画を撤回させる介入を行ったと報じられている。
これによって、製鉄所の閉鎖が撤回され、約800人の社員の雇用が維持された。今後も事あるごとに米商務省が同社の経営に介入することが明白となり、事実上米国政府が経営権に強い形を持つことが確認された。
この経営介入に関する日本側の評価は不明であるが、米国側にとってまさに「してやったり」という取引であり、米国側の満足度は極めて高いものと言えよう。
日米貿易交渉の本丸については、その手堅さと大胆さが米国側に好印象を与えたようだ。
具体的には、EU、カナダ、インドのような国々とは違って、最初から「対抗関税」という選択肢を捨てたことがプラス評価されたようだ。
対抗関税のような反抗的な政策を世界有数の経済大国の日本が取らなかったことは、トランプ政権にとって他国との交渉を有利に進められるカードとなった。
日本とEUが協力して対抗関税を講じた場合、トランプ政権の貿易交渉の障害が極めて大きくなった可能性があり、石破政権の従米姿勢・忠臣ぶりは米国有利の流れを作ったと言えよう。
米国と無駄に戦うこともなく、粛々と合意に至る
筆者が米国側にヒアリングしたところ、米国と無駄に戦うこともなく、粛々と合意に至る道を作ったことについて、米国側には軽いサプライズがあったようだ。そして、この辺りから石破政権は実は賢い行動が取れるのではないか、という評価のきっかけが生まれたと示唆された。
また、アラスカ開発・パイプラインの建設投資は、エネルギー輸出国であることを売りにしているトランプ政権にはクリティカルに刺さる提案だった。
トランプ大統領が既に大統領令でアラスカのエネルギー資源開発等に取り組む意欲を示していたこと、連邦議会議員にとっても重要なアピールになること等、この巨額の投資案件は政治的にシンボリックな事案であった。
実際には同開発計画は採算性リスク・政治的リスクが高い案件であるが、2月の初会談後にアラスカで既にエネルギー開発に関するフォーラムが開催されるなど、日本側の政治的なパフォーマンスとしては米国側に前向きなイメージを与えている。













