二人は運命共同体

2022年夏には腎臓移植手術をする予定だった。

「医師からは代替療法として、移植をするか透析をするか、その二つを提案されました。でも彼女は歌手だから、透析をしたら仕事ができなくなってしまう。だったら、自分がドナーになると伝えました。これを愛とか簡単に言われてしまうと違和感を覚えるんですけど……。

20年以上、縁あって一緒にいたのに“透析して”なんて言えるわけがない。そこは男の責任だと思っていますし、腎臓ひとつあげても私の命に別状はありませんから。できることは何でも、たとえほんの少しでも彼女のためになるならという思いで、1も2もなく移植を選択しました」

松野はスクリーニング検査をクリアし、手術当日を待っていたが、手術は延期となる。田代の容態が安定したので、術後の免疫抑制剤などの投与を考慮すると、様子を見たほうがいいという医師判断からだった。

「ありがたいことに、(手術延期から)丸3年が経過しました。彼女の腎臓の数値は横ばいで安定。良くなっているわけではありませんが、歌手活動もできています。制限食は非常に厳しい決まりがあるんですが、すべて私が作っています。通院にも付き添っています。

やっぱり自分がかけてもらった恩は、腎臓ひとつ程度じゃ返しきれない。彼女の存在がなかったら、今までやってこられなかったと思います。彼女の病気は完治が目指せるものではなく、一生続くもの。だから、その大変さは私が背負っていく、どちらかが死ぬまでは。すごく表現が難しいんですけど、運命共同体みたいな感じなんです」

インタビュー中、愛という言葉をどこか嫌っていた松野。しかし離婚に苦しめられた男がたどり着いたのは、まぎれもない無償の愛――。

(前編はこちら)

二人はこれからも二人三脚で (本人提供)
二人はこれからも二人三脚で (本人提供)
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取材・文/池谷百合子