手術の必要がないと知っていながら7年にわたり子宮と卵巣を摘出し続けて莫大な利益をあげていた…富士見産婦人科事件の闇
1980年に埼玉県の産婦人科で発覚した「富士見産婦人科事件」。医師免許を持たない院長らが、病院ぐるみで手術の必要がない患者の子宮や卵巣を摘出し続けていたという衝撃の事件である。
書籍『産む自由/産まない自由 「リプロの権利」をひもとく』より一部を抜粋・再構成し、事件の全貌を明らかにする。
産む自由/産まない自由 「リプロの権利」をひもとく #3
行政は何の調査もしなかった
被害者同盟代表の小西熱子によれば、事件発覚前、保健所や市役所には富士見産婦人科病院に関するさまざまな苦情が寄せられていたが、行政は何の調査もせず長年にわたり放置した。それにより被害が拡大したことに対しても、行政は何の責任も果たしていない(富士見産婦人科病院被害者同盟/同原告団編著『富士見産婦人科病院事件』、一葉社、2010年)。
富士見産婦人科事件は誰にでもわかりやすい「産科暴力」である。しかし、産婦人科医として事件に憤り、訴訟を支援した佐々木靜子は、産婦人科医療全般について、以下のように述べている。
子どもの安全のみを重視した管理分娩や会陰切開。妊娠までに燃え尽きてしまうような不妊治療。治療と呼んでよいか考えてしまうような子宮筋腫温存療法。薬漬けでなければ老後の健康が保障できないと思わせるような更年期治療などなど……。当事者である女性に「暴力的な」産婦人科医療が存在してきました。わたしは、まず産婦人科医療を女性にやさしいものに変えていくことが大事だと感じています。
(『佐々木靜子からあなたへ』教育史料出版会、2015年)
佐々木の指摘は、極端な事件だけでなく、日常的な産婦人科医療の中にも構造的な暴力が埋め込まれていることを示唆している。女性の身体と自己決定権を尊重する医療への転換は、リプロの権利を実質的に保障するために不可欠である。
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産む自由/産まない自由 「リプロの権利」をひもとく
塚原 久美
2025年9月17日発売
1,089円(税込)
新書判/240ページ
ISBN: 978-4-08-721380-5
妊娠・出産したいか、したくないか。いつ産むか、何人産むか──。そのほか、中絶、避妊、月経、更年期に伴う心身の負担など、生殖関連の出来事全般に関し、当事者がどのような選択をしても不利益なく生きることのできる権利を「リプロの権利」という。1990年代、女性にとって特に重要な権利として国際的に定義・周知されたこの人権について、日本でほぼ知られていないのはなぜなのか。中絶問題研究の第一人者が国内外での議論の軌跡をたどり解説する。少子化対策と称し「出産すること」への圧力が強まる今、必読の書。
【目次】
はじめに~日本社会から欠落している「リプロの権利」の視点
序章 リプロの権利は「人権」のひとつ
第一章 リプロの権利はいかにして生まれたか
第二章 人口政策に翻弄された日本の中絶・避妊
第三章 二〇〇〇年代、日本政府の「リプロ潰し」
第四章 世界はどのように変えてきたのか
終章 日本の今後に向けて
おわりに