国体思想が蔓延し、靖国神社にも接近している自衛隊

前川 もう1つ非常に危ないなと思っているのは、自衛隊の中に国体思想のようなものが蔓延しつつあることです。靖国神社との関係も非常に近くなってきているし。靖国神社は海上自衛隊の海将だった人が宮司になったし(*2)、陸上幕僚長をやった人が靖国神社の崇敬者総代になっています(*3)。こうやって自衛隊と靖国神社の関係が非常に近くなって、集団参拝もあちこちの部隊がやっています。「これは休憩時間にやった」とか「自由時間にやったんだから、自衛隊としてやったのではない」と言うんですが、部隊単位で参拝するということは、休憩時間であれ、休日であれ、集団参拝です。政教分離に反していると私は思います。

靖国神社 写真:ロイター/アフロ
靖国神社 写真:ロイター/アフロ
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本当に危ない状況がだんだん進行していると思う。だからこそ、少なくとも中学や高校で歴史を教える先生は、少なくとも、この林さんの本は必ず読んでおきなさい、と言いたいですね。

津田さんのように自ら沖縄まで行って証言を集めて回るなんていう人はなかなかいないと思いますが、少なくともこの本を読んでほしい。この本がすごいと思ったのはもう1点あって、参考文献だけで17ページあるんです。だからこれを読んで、さらに勉強したければ、勉強するための書籍が提示されているんです。特に中高の社会科の先生には、ぜひこの本を読んでもらいたいと思います。

*2 2024年4月に海上自衛隊の海将だった大塚海夫氏が就任。将官を務めた元自衛隊幹部が靖国神社トップに就任するのは初めて。靖国神社は、太平洋戦争中は陸海軍の管轄下で、鈴木孝雄・陸軍大将が宮司を務めていた。敗戦後、GHQ(連合国軍総司令部)の指令で国や旧軍から切り離され、民間の宗教法人に転換し、宮司には元皇族や旧華族、神社関係者らが就いてきた。

*3 2023年7月に元陸上幕僚長の火箱芳文(ひばこ・よしふみ)氏が靖国神社の崇敬者総代に就任。

 先ほどの前川さんの話の中でも2006年の教科書検定において、「集団自決」だけ取り上げられて、外交問題に発展するようなものは取り上げなかったという話がありました。その「集団自決の強制」という文言を削除するときに、実は教科書調査官が私の本を持ち出して、「林さんも日本軍の命令はなかったと言っている」と教科書執筆者に言ったんです。私が2001年に出した『沖縄戦と民衆』(大月書店)という本が、教科書検定で悪用されたんです。

あの本の中で私は「集団自決」についてある程度詳しく分析していて、「日本軍による強制と誘導によって〝集団自決〟が起きた」という結論を出しているんです。ただ、たとえば渡嘉敷島や座間味島の部隊長が「今から自決せよ」という命令を住民に出したかは確認できない、とは書いています。しかしその場で部隊長が命令しなくても、「いざというときにはみんなが自分たちで死ぬように、軍と行政が仕向けてきた」ということを丁寧に分析しているんです。ですから結論として、日本軍による強制と誘導だと。

それなのに、ある教科書執筆者は文科省から呼び出されて、私の本をぱっと出されて、ある行を見せられて「日本軍の命令はなかったと林さんも言っているじゃないか」「だから日本軍の強制はなかった。そう書いてはダメだ」と言われたと。

でもその執筆者が後で私の本をよく読んでみると、「直接の命令は確認できないけれども、結論としては日本軍の強制だ」と書いてある。これはそれまでの教科書でも、日本軍の命令によって集団自決が起きたという書き方はほとんどしていなくて、基本的には日本軍による強制、あるいは日本軍によって強いられた、という表現なんです。

ですから、軍の強制を否定する根拠に私の本を使ったのは全くデタラメで、その教科書調査官は許せない人だと思っています。「上から圧力があったとしても、人として守るべき道があるだろう。それなのにそういう利用の仕方をするなどとは研究者失格だ」と。

前川 なるほど。

 いずれにせよ、日本軍が住民を虐殺したこと、これはもう沖縄県が県議会でも全会一致で「これは事実だからちゃんと書け」と言っているので、認めざるをえない。でも日本軍を肯定したい人々は、沖縄戦の記述を何とかしたいので、西田議員や参政党代表の発言にしても、沖縄戦のことを取り上げてきてるんじゃないでしょうか。そういう意味では、ちょうどこの本を今年出せたというのは幸いでした。

また、先ほど紹介されたように、巻末に参考文献もたくさん紹介しています。沖縄県史や沖縄の市町村で沖縄戦に関する本が膨大にあります。本土ではなかなか手に入れるのは難しいんですが沖縄に行けば読めますし、いくつかウェブサイトで掲載している自治体もあって、沖縄戦体験者の証言がたくさん載っています。ぜひ私の本も活用していただいて、さらに読んでいただければと思います。

沖縄戦に関しては、沖縄県民だけにとどまらず日本国民がきちんと理解して、歴史的な事実をきちんと広め、学校教育でもやってもらわないと困るので、そういう意味で日本国民の技量が問われている問題だと思います。沖縄の人々はずいぶん抗議していますが、むしろ本土の人間こそが、沖縄のことをきちんと理解してほしいと思いますね。

構成/稲垣收

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◆目次◆
 序  なぜ今、沖縄戦か
第1章 沖縄戦への道
第2章 戦争・戦場に動員されていく人々
第3章 沖縄戦の展開と地域・島々の特徴
第4章 戦場のなかの人々
第5章 沖縄戦の帰結とその後も続く軍事支配

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菅政権になっても、「官邸官僚」主導の政治体制は変わらない。
しかし、官邸官僚が「一本化」されたことで、安倍政権よりも支配構造がさらに強くなってしまった。
愚かな国民は、愚かな政府しか持つことができない。賢い国民が育つために決定的な役割を果たすのは、メディアと教育だ。メディア関係者と教育関係者が権威主義や事大主義に毒され、同調圧力に加担し付和雷同に走るなら、日本国民はますます蒙昧の淵に沈んで行くだろう。
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【目次】
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■第2章 私物化の継承と暗躍する官邸官僚
■第3章 安倍・菅政権における政と官
■第4章 人災だった全国一斉休校
■第5章 奪われ続ける自由
■第6章 主権者を育てる

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