なぜ婚姻率は急降下したのか
Z世代は、仕事や日本の未来には概して前向きな半面、恋愛や結婚には必ずしもそうとは言い切れません。背後には、「デジタル化」をはじめ、意外な事象の影響もあるようです。
「いまどきの若者は、結婚も面倒なんでしょ」
そんな批判が目に見えて増えたのが、14〜15年ごろ。20代の未婚率が、男女で8割前後(男性85.0%、女性77.5%)にのぼったころからです(総務省「国勢調査」)。
近年も、若者の未婚率は上昇を続けています。直近の国勢調査(20年)によれば、20代男性の9割弱(86.1%)、同女性の8割弱(79.4%)が未婚。15年とさほど違わないものの、30年前(90年)との比較では、男性で1割弱(79.4%↓)、女性では2割弱(63.2%↓)も未婚割合が増えたのは確かです。
もっとも、伸びが顕著なのはむしろ、その上の30代のほうです。30年前との比較で、未婚率は男女共に2割程度も増え(=男性26.0%→45.2%/女性10.7%→32.4%)、40代でもその伸び率はほとんど変わりません。そうだとすれば、この30年間で結婚しなくなったのは、「(いまの)若年層だけではない」ことになります。
また現在、20代の未婚男女すべてが「結婚は面倒」「一生結婚したくない」と考えているのかといえば、もちろんそれも違います。
それを顕著に示すのが、国の第三者機関の経年調査(国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査」)。この中で、「いずれ結婚するつもり」という20代の回答は、15年時点で、男女の9割前後(男性85.8%、女性90.0%)を占め、直近の21年時点でも約85%(男性84.3%、女性85.1%)と、6年間でさほど変わりませんでした。
両者が9割を超えていたバブル期(87、92年)に比べれば、「結婚するつもり」は1割以上減りましたが、それでも90年代半ば以降、劇的に減った婚姻率(実際に結婚した割合)に比べると、結婚を希望する人の割合はさほど減っていません(後述)。
つまり、結婚を嫌がる若者が、30年前より極端に増えたわけでもないのです。
では、なぜ8〜9割の若者に結婚意欲がありながら、婚姻率だけが急降下したのでしょう。お察しの通り、それは(Z世代の先輩たちも含め)、20代のころは「いずれ結婚を」と考えていたのに、多くはそれが叶わなかった(ない)、あるいは途中で相手探しを断念するなどし、「やっぱり独身で(が)いい」と考え直したのだと推察できます。
また、中央大学文学部の山田昌弘教授は、「若者の婚姻率が低下した最大の原因は、明らかに若者を巡る『経済格差』です」と会うたびに仰います。後ほど詳しくふれますが、所得の格差を示す「ジニ係数」は、確かに02年から17年までの間に、若年層(25〜34歳平均)で0.276→0.284へと拡大しました。
国際的に「警戒ライン」とされる0.4には達しないものの、いまは奨学金の借入経験を持つ学生も多い。Z世代を中心とする学部生、院生(修士・博士課程の平均)では、ともに借入経験者が55%にのぼるとされ、「結婚どころじゃない」「目の前の借金(奨学金返済)で頭がいっぱい」などと話す若者が顕在化しているのです(24年日本学生支援機構「学生生活調査」)。