「あのね、そうやって食べてると太るわよ」

入社当時、私はオープン・スペースの一角にあるデスクで仕事をしていました。そのオープン・スペースには、コーポレートPR、アシスタント、そして研修生が混ざり、ワイワイといつも賑やかな雰囲気でした。

覚えることがあまりにたくさんあって焦っていた私は、よくサンドイッチを買い込み、仕事をしながら手早く昼食をとっていました。時間がもったいなかったのです。

メディアとの会食が次第に増えてくると、今度はランチの予定がない日を利用して「太らないため」にサラダなどをテイクアウトしていました。

不思議だったのは、私のようにオフィスランチをしている同僚が全くいなかったことです。ランチ時のオープン・スペースはいつも閑散としていました。

最初のうち、それは周りのみんなが会食に忙しいからだろうと思っていたのですが、どうやらそうではないようです。ランチの約束がない研修生ですら、毎日、毎日、お昼の時間はオフィスを空けています。

テイクアウトサラダのイメージ 写真/Shutterstock
テイクアウトサラダのイメージ 写真/Shutterstock
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ある日、いつものようにサラダを頬張りながら仕事を片付けようとしていると、オフィスを覗きに来たファッションPRのファニーが言いました。

「あのね、そうやって食べてると太るわよ」

彼女は思ったことをすぐ口にする典型的なパリジェンヌです。ピンとこない私が、

「サラダが?」

と問い返すと、ファニーは呆れたように言いました。

「サラダじゃなくて。そうやって仕事しながら食べると太る、って言ってるのよ」

彼女の口調に思わずカチンと来た私ですが、ファニーは全くお構いなしです。そして「ほら、行くわよ」と無理やり私をオフィスから連れ出しました。PR仲間達も数名、ゾロゾロと集まってきます。

そう、彼女達は会食のない日、連れ立って外食していたのです。本社はもちろん、社員食堂を完備していたのですが、そこは非常に不人気で足を向ける人はあまりいません。みんなが行くのは、本社近くのビストロやカフェのような気軽な場所でした。