パリジェンヌは決して「ながら食べ」をしない
驚いたことに、ランチは1時間半、時には2時間続きます。女子が集まるとおしゃべりが絶えません。耳を傾けていると、愚痴もあれば、うわさ話もあります。家庭内の不和の話もあれば、恋愛話もあります。
どうやら、ランチの時間はパリジェンヌにとって、ストレス解消に欠かすことができない、大切な時間であるようです。
話は面白いのですが、私は最初のうち、かなり手持ち無沙汰でした。ふと、周りを見てみると、運ばれてきたお皿をあっという間に平らげていたのは私だけです。みんなまだ半分も食べていません。
すかさず、「ジュン、食べるの早過ぎ」というツッコミが飛んできます。もちろんファニーです。
私は言い返すこともできませんでした。言われてみれば私はものすごく食べるのが早いのです。デスクトップの画面から目を離さずに昼食を取る時の私は、すごい勢いで食べていました。
会食中はと言いますと、話に集中しているため、何を食べているかあまり意識せず、口にある物をただ飲み込んでいました。いずれの場合も、「あまり食べた気がしない」という感覚が残る食べ方でした。
周りのパリジェンヌを観察していると、ゆっくり噛みながら昼食を楽しんでいます。そして、注文した前菜の出来が良いだの、悪いだの、お肉の焼き加減が最高だの、最悪だの、出てきた料理の評価をしています。
更には、ここはシェフが最近変わって美味しくなっただの、不味くなっただの、レストランの批評も欠かしません。つまり、私から見れば、かなり「意識的に食べている」のです。
忙しくてなかなか時間がとれず、仕事をしながらランチをすませたり、本や新聞、スマホを見ながら食事をしていませんか? その結果、「食べた気がしない」という不思議な感覚に囚われたことはありませんか? 「ながら食べ」をすると、なかなか満腹感を得ることができません。
パリジェンヌは決して「ながら食べ」をしません。食事に時間を取り、そして食べることに専念します。食事中は食べているもの、その食事を作ってくれた人、そしてそこから得られる快楽に意識を集中させているのです。
それはなぜかといえば、単純に食を愉しむためです。食は体のためだけではなく、心の活性剤になることをパリジェンヌはよく心得ているのです。
同僚とランチをするようになってからというもの、私は「ながら食べ」をやめることを心掛けました。早食いがすぐに治ったわけではありません。
けれども、太らないために「何を食べるか」ということに執着していた私が、「どう食べるか」ということに意識をシフトするようになったのです。それはとても大きな収穫でした。
無理やり連れ出してくれたファニーに感謝しなければなりません。
#2に続く
文/藤原淳 写真/Shutterstock













