④ストーリーの予告

●夜の路上で、いきなり頭から南京袋をかぶせられた 北朝鮮に連れ去られた曽我ひとみさん、帰国までの24年

●海底の坑道には、今も183人の遺体が閉じ込められている…82年たっても政府が調査に後ろ向きな理由

●「感染者が立ち寄った店」知事のひと言で客は消えた…老舗ラーメン店主の絶望行政のコロナ対応は本当に妥当だった?

●成績トップだった中国人留学生は、母国の〝依頼〞を断れずスパイ活動の「末端」に転落した 夢を持つ若者を引き込む中国軍の情報活動日本へのサイバー攻撃関与の疑いで国際手配へ

●政界を揺るがした捜査のきっかけは、1人の「教授」の執念だった自民党の派閥裏金事件

これらは、これからストーリーが始まることを予告するような書き方。読まれる記事の分析で、読者は「共感を求めている」とあったように、記事本文がいわゆる「エモい」話になっていることが見出しを見た段階で分かれば、本文に流入する人は多くなる。

記事が読まれるかどうかは見出しで決まるって本当?「47NEWS」の部長が教える「読まれる見出し」4原則_5
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危険な見出し

多く読まれた記事の見出しについてここまで四つのパターンを挙げたが、これに倣ったからといって必ずしもうまくいくわけではない。実は、これらのパターンに当てはめたのに、あまり読まれなかったという記事のほうが圧倒的に多い。

うまくバズらせられない状況が長く続くと、デジタル記事を担当する責任者として、懸命に取材して執筆してくれた記者たちに顔向けできない気持ちにもなる。

だからといって読者の感情を動かそうとして見出しにあまりに凝りすぎると、失敗しがちだ。次に挙げる2本の見出しは、私が実際に失敗した例として、恥ずかしながら紹介する。

●「まるでキャバ嬢扱い」国際ミスコン予選でまさか出場女性を審査員の隣にはべらせ…国連は「勝手にロゴ使用」と激怒

●東日本大震災の多すぎる遺体、大きく貢献したソフトを作ったのは、遺体安置所にいた1人の歯科医だった

一つ目は「キャバ嬢扱い」という表現が不適切だと社内から指摘された。人の職業を貶めるような表現で、言われてみれば確かにその通りだが、PVを上げることに夢中になりすぎていた私は気付いていなかった。

その後、「まるでキャバクラ」と変更して配信したところ、結果多くの人に読んでもらえた。見出しどうこうというより、もともとの記事本文に読者を引きつけるパワーがあったからだ。小手先で何とかしようと思っていた自分が恥ずかしかった。

二つ目は誰が見ても分かるだろうが、「多すぎる遺体」という表現の不適切さ。これも紹介していて恥ずかしくなるが、あまりに配慮を欠いた表現だ。この見出しも社内で指摘を受けた。

言われて、こんな基本的なことに気付かなくなっていた自分が少し怖くなった。その後「東日本大震災の身元確認」と穏当な表現にして配信。こちらも多く読まれた。

この二つの失敗例は、見出しに凝りすぎるのはかえって良くない、という私自身への戒めになっている。デジタル記事を担当する社外の人と話していると、「PVは見出し次第」と言い切る人が一定数いるが、個人的には必ずしもそうだとは思わない。

大切なのはやはり記事本文の質であり、この配信元の記事は読みやすい、と思ってもらえるように、ブランド力を長期的に育てることこそ優先すべきだと思う。見出しは、せっかくの取材成果を多くの人の目に触れさせるよう工夫をすべき箇所だが、一方で、その危うさを認識する必要があるとも考えている。

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新聞記者がネット記事をバズらせるために考えたこと
斉藤 友彦
新聞記者がネット記事をバズらせるために考えたこと
2025年2月17日発売
990円(税込)
新書判/240ページ
ISBN: 978-4-08-721350-8

共同通信社が配信するウェブ「47NEWS」でオンライン記事を作成し、これまで300万以上のPVを数々叩き出してきた著者が、アナログの紙面とはまったく異なるデジタル時代の文章術を指南する。
これは報道記者だけではなく、オンラインで文章を発表するあらゆる書き手にとって有用なノウハウであり、記事事例をふんだんに使って解説する。
また、これまでの試行錯誤と結果を出していくプロセスを伝えながら、ネット時代における新聞をはじめとしたジャーナリズムの生き残り方までを考察していく一冊。

◆目次◆
第1章 新聞が「最も優れた書き方」と信じていた記者時代
第2章 新聞スタイルの限界
第3章 デジタル記事の書き方
第4章 説明文からストーリーへ――読者が変われば伝え方も変わる
第5章 メディア離れが進むと社会はどうなる?

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